音戸山通信 2004/03/30

カンボジア旅行記より 第一日目

 

 カンボジアというよりもアンコールワットなどの遺跡群を見て回るという旅行で、今回は現地で3泊という旅行社のツアーに便乗した。学校の春休みとは言えど、あれこれ労働奉仕ものの毎日からのリフレッシュを兼ねたものだったからである。いつもの重い一眼レフから、お手軽なデジタルカメラにしたのも、後々の処理のし易さもあるが、やはりお手軽でいいかな、という心のあらわれ。実のところ、それほど大きな期待感はなかったのである。折しもカンボジアを挟んだタイとベトナムで鳥インフルエンザが大流行し、死人も出ていた。一度は諦めたが、何のことはない、京都でも鳥インフルエンザが連日のように報道されるではないか。また復活して、3月22〜26日の現地4日間の旅に出ることにした。ひとたび出れば、建築家にはどこでもいい勉強ができる。

カンボジアおよびアンコール遺跡群マップ(小学館文庫「アンコール遺跡の光」より)

 標準的なパック旅行といったところであるが、おおよその旅程とプログラムをまず示しておこう。従来ならプノンペンかバンコク、あるいはホーチミンを経由する便でシェムリアップに渡ったのであるが、今はチャーター機による直行便が利用できるようになったのがいい。関西空港から6時間(帰りは5時間)ほど。

3月22日 関西空港11:00発 シェムリアップ15:20着 (チャーター直行便)

  23日 早朝アンコールワットにて日の出を見、午前アンコール・トム遺跡群

      午後アンコール・ワット、プノン・バケンにて入り日を見る

  24日 午前バンテアイ・スレイ、

      午後トンレサップ湖上集落

  25日 午前バンテアイ・クディ、スラ・スラン、タ・プロム

      午後市内オールドマーケットにて買い物、民族文化村見学

  26日 午前3:00発 関西空港10:20着

シェムリアップ風景

 カンボジアの地図を見ると、中央に大きな湖、トンレサップがある。雨期にはメコンの水を上流と下流から集めると言われるが、乾季で琵琶湖の3倍、雨期では10倍以上になるという。飛行機は湖岸上を飛んでアンコールワットの玄関都市であるシェムリアップに着く。陸はほとんどジャングルで、たまに一筋の赤い道が見えている。湖は、ほとんど泥水に見える。

飛行機から眺めたトンレサップ湖 琵琶湖のエリ網と同じものが見えている

同上 埃のように見えているのが水上家屋群

 今回の旅行でひそかに期待していたのが、トンレサップ湖上集落である。まさか最初に飛行機からそれが覗けるとは思いもしなかった。後で分かったことだが、たまたま撮った上の一枚がまさに訪ねた集落であり、河川がシュムレップ川である。(第三日目をご覧いただきたい。)

空港着陸直前の風景 椰子の木立がのどかでいい

 空港はアンコールワット遺跡よりほど近いところにあり、席によっては遺跡が上空から覗けただろう。残念ながらわが席は翼の上になるので、その向こうに見える古代の大きな人工の貯水池、西バライが望めただけだ。空港そのものはいかにも田舎の小さい空港で、ほかに飛行機が見えない。風景は、ため池のような小さい水たまりが散らばっった水田が広がる。今は乾季なので、雨は皆無、ほとんど乾いた大地である。11世紀、かつてのアンコール王朝の歴代の王達は灌漑治水に力を入れ、東西に大貯水地を築造した。現在もなお、その恩恵をいただいている。

 

国道6号風景 ちょうどこのあたりが工事中なので、すごい土埃。

 プノンペンまでつながる国道6号線はちょうど市内にさしかかるあたりが工事中で、赤い細かな砂の埃が巻上がっている。バイクや自転車、二人乗りバイクタクシーが埃の中を爆走しているところなど、いかにもアジアっぽい風景だ。シェムリアップからプノンペンまでこの道を300kmほどバスに揺られて行くのだそうだ。

宿泊ホテル City Angkor

 ホテルに着き、シャワーを浴びてさっそく周辺を散歩。ホテルの整備された庭もなかなか楽しかったが、その裏手にあるサポートエリアが面白い。様々な観葉植物が育てられていたり、瓦が積まれていたり、材木が削られていたり、なかなか見飽きない。庭のはずれにはフィリピンマンゴーがたわわに実っていた。夜、市内の屋台でよく熟れたマンゴーを買い、冷やして賞味。季節外れとは言え、鮮明濃厚な味は熱帯の国に来た喜びを確認させてくれる。

ホテルの裏手に製材所があった。材は硬く、チークのようなものである

ホテルの庭にあったマンゴー。まだ青いな〜

プールサイドにいた丸いカエル

 ホテルのベランダにある外灯のまわりに、ヤモリが数尾。見ると、とんでもなく大きなものもいる。庭にも大きな蜥蜴がうろうろしていた。短く端が丸い複葉の飛行機を思わせる蜻蛉は、いかにも可愛らしい。残念ながら写真に撮れなかった。

市内の果物屋さん。 廉価なものが多い

 果物の種類はそう多くない。りんごやみかんの類いが多く、レンブやタマリンドのようなたいして美味しいとも思えぬ代物がある。竜眼はタイでお馴染みのものと、ベトナム系のものの2種類がある。ホテルのデザートにはベトナム系がほとんどだった。期待していたマンゴスチンやランブータンなどは、季節が違うのか、あるいは高級なのか、ついに見かけなかった。パイナップルや西瓜も小さく、あまり上等ではない。おそらくまだ国民は貧しく、果物に嗜好を求めるところまで行かないのだろう。

早朝のアンコールワット

 翌日未明からアンコールワットの日の出を見るツアーに出発、街灯もなく真っ暗な道を行く。見れば、バイクタクシーの観光客や自転車の西欧人もいる。途中でチェックポイントがあり、そこで3日間の観光パスをつくってもらう。パスには銘々の写真を張り付けることになっている。アンコールワットに到着したころには薄明るくなっていた。

早朝の堀の眺め

堀を渡る西通路

西塔門の東側にて日の出を待つ観光客 9割は日本人

西塔門南翼廊

西塔門の女神

アンコールワットの日の出

 アンコールワットはクメール語で言えば、寺院都市ということになるのだそうだが、その昔は「大きな都市」を意味するアンコール・トムに対して、アンコール・トイ、「小さな都市」とも呼ばれていたそうだ。今では、東西1300m、南北1100mほどの堀に囲まれた大寺院という格好になっているが、もともとは神殿を中心にした環壕都市の様相を呈していたのかもしれない。宮殿や住居群は木造なので、今日に伝わらない。雨期にもなれば、周辺は場合によってはほとんど水没することになるのだろう。重要な通路は高い位置に設けられており、外周の壕は外敵からの防御でもあり、敷地内の水を引くための調整池としても機能しただろう。

 アンコールワットは12世紀の王、スールヤヴァルマン二世によって築かれたという。ヒンドゥー教を信仰していた王は、自らをヴィシュヌに比し、中央にヴィシュヌ神を頂いた須弥山を置き、周囲に四山を連ねた回廊を幾重にも配している。ヒマラヤのイメージに重ねられているとも言われる。一昨年訪れたジャワ島のヒンドゥー寺院、プランバナンを思い出すが、アンコールワットの方が緻密で、高さも構成も数段に優れている。塔の高さはおよそ65m、回廊の高さでも20mほどだそうだ。それほど高く築かれた理由も、もちろん、宇宙の中心を成す神殿としての要請であるが、周囲のジャングルの上に塔の部分が抜き出る遠望からも了解されよう。砂岩に彫刻された女神像などが示すように、まさに天空の楽園として優美につくられた神殿でもある。3月23日、正面からは、あかあかとした太陽はまさに中央の塔より昇っていた。

(文と写真 さのはるひと)