母乳で育てる

 私たち桶谷式母乳育児相談室には、「おっぱいが出ない」「おっぱいが張って痛い」「赤ちゃんがうまく飲んでくれない」「ちゃんと出ているか不安」といった、おっぱいの悩みや不安をかかえたお母さんが赤ちゃんを連れてお見えになります。

 かつてはごくあたりまえだった母乳育児が、どうしてこんなにもうまくいかなくなったのか、その理由はすでに言い尽くされていますが、現代の暮らしや医療事情、女性のライフスタイルや食生活の変化、家族や周辺の母乳育児への認識の甘さなど限りなくあげられます。

そんな不利な状況の中でも、最近「私は母乳」というお母さんが確実に増えてきていることを、毎日の仕事を通して実感しています。虐待やキレる子が社会問題になり、赤ちゃん時代や幼児期の育て方が改めて問い直されています。そんな中で親子関係の原点「母乳育児」の大事さが、認識を新たにしてきたのだと思います。

 お母さんの中には母乳で育てることを、とても難しいことだと考える方がいらっしゃいます。でも、母乳育児がすごく大変で手間もかかり、つらいものだったら人類はここまで繁栄し、続いてきたでしょうか。ほんとうにほんとうに自然な行為なのです。

でも、いくらそのつもりでいても赤ちゃんが生まれてみると、思うように行かないことが出てきます。そこで早めに母乳育児の準備や勉強をしたり、最初のうちは少し練習もいまの時代には必要かもしれません。でも、慣れてくれば清潔で簡便、栄養面でも心配のない母乳は、育児に忙しいお母さんを助けてくれますし、なによりも赤ちゃんと楽しい時間が持てることで、親子の絆が深められ「母乳で育ててよかった」の充実感をたっぷり味わえると思います。


  

 私たちは「おっぱい」を通して、お母さんと赤ちゃんから毎日たくさんのことを教えてもらっています。岩のようにガチガチに張った乳房が私たちの手技でだんだん柔らかくなり、それまで乳房に吸い付けなかった赤ちゃんが力強く「コクンコクン」と飲んでくれたときのお母さんの喜び、赤ちゃんの満足した表情。「この仕事をしていてよかった」と思う一瞬です。
「母乳育児ができてほんとうによかった。子供と真剣に向かい会ったあの時期が私を育ててくれた」「つらいことこあったけど、頑張った自分と子供をほめてあげたい。夫にも感謝です」などなどは、母乳育児がお母さんを一回りも二回りも大きくさせた言葉です。そして「この仕事をしてよかったのは、私たちがお母さんに何かしてあげたということではなく、お母さんと赤ちゃんから多くのことを学んだ充実感」です。
 桶谷独自の手技と母乳育児指導を大切にしながら、今日の医学の進歩とどん変わっていく育児事情を視野に入れた「古くて新しい桶谷式」で、皆様の母乳育児のお手伝いをしていきたいと思います。

(主婦の友出版 「桶谷式 母乳で育てる本」 より)

主婦の友社 出版
 「桶谷式 母乳で育てる本」