オプタコンのパターン振動刺激による視覚障害者体性感覚誘発電位

 

はじめに

人間は,外界からの情報の約80%を視覚系から取り込んでいるといわれている。視覚情報の入手が制約されている視覚障害者は,事物や環境認知において聴覚や触覚など視覚以外の感覚機能を最大限活用していることはよく知られている。例えば,触察や点字触読など触覚機能を活用した事物の認識においては,視覚障害者は極めて優れた能力を発揮する。しかし,二点間弁別閾などを調べると,晴眼者と視覚障害者とではあまり違いがないことから,視覚障害者の優れた触情報処理能力は脳内における処理過程に起因しているのではないかと考える。最近の研究ではKujalaら(1993)は弁別した際に標準刺激呈示において注意とは関係なくN1a以降の陽性成分が視覚障害者で大きく,この成分は非特異性のモダリティ,つまり注意から独立した反応として報告している。また,逸脱刺激によるN250成分の頭皮上分布が異なることもほうこくしており能動的な認知の際の脳内領域の処理過程の違いを示唆している。そこで,手指を振動刺激した際に生じる体性感化誘発電位(以下SEPと略す)を用い,視覚障害者における振動受容について検討した。

 

T 対象

視覚障害者群として、盲学校高等部及び専攻科に在籍する生徒と大学に在籍している学生及び大学卒業者の計6名(192ヶ月〜2411ヶ月)を対象とした。視力は光覚盲から視力右0.04、左0.06であった。また晴眼者として7名を対象とした。

 

U 方法

脳波は国際1020法に準じたC3CzC4PzC3P3の中点C3P及びC4P4の中点C4P6部位から両耳朶結線したものを基準として導出した。また眼球運動にともなうアーチファクトの混入を確認するため、左眉上及び眼瞼下1cmから垂直眼球電位(V-EOG)と眼瞼角1cmから水平眼球電位(H-EOG)を導出した。刺激呈示にはパーソナルコンピューター(Dell社製)が組み込まれた汎用刺激呈示装置(Neuro scan社製,STIM)とオプタコンを組み合わせて用いた。(図1)

振動刺激には,盲人用読書機器オプタコン(Telesensory systems社)を用いた。振動刺激図形には縦12×横6計72本の半面刺激と縦6×横6計36本の1/4面刺激を用い(図1)、最初に非弁別条件として半面刺激と全面刺激を1.5:8.5の比率でランダムに呈示し、次に弁別条件として非弁別条件の刺激と同様の条件であるが被験者に半面刺激のみターゲットとして数えてもらい,刺激呈示終了後,その回数を答えてもらった。刺激の時間関係はSTIMのトリガーパルスが出てから実際に触覚ディスプレイ振動子が振動するまでに計6msecかかっていたが、本稿で述べる主たる成分は80msec以降の成分なので,改めて調節することなくそのまま述べて行く。

オプタコンによりでる音は耳栓と消音装置で覆い消音した。消音装置はグラスウールでできた板状のものを箱型に組み上げた。この装置だけでほとんど刺激呈示時に発するオプタコン作動音は聞こえなくなる。

実験は防音室内で実施し、刺激はリクライニングチェアーに横になった対象者の左手示指に呈示した。視覚障害者が被験者である場合は、補助者が防音室内に付き添った。

刺激呈示時の脳波はサンプリング間隔1000点/secでAD変換し、記録されたデータは,100Hzのロウパスフィルターを通し,ハイパスフィルターは0.1Hzとしたうえ、刺激前100msから刺激後400msまでの区間で、高頻度刺激を180回加算した。

 

V 結果

(1)振動パターン弁別状況(表1)

晴眼者と視覚障害者の弁別状況を比較すると一定の傾向は認めがたい。必ずしも点字を用いている視覚障害者の弁別率が高いということではなく,いずれの群ともかなり個人差があった。なお,内省によると晴眼者では刺激が3種類に感じたものがおり,それらは全員回答が正解よりマイナスとなっていた。

(2)SEP波形の分析結果

図2に示したSEP波形では非弁別,弁別のいかんにかかわらず晴眼者,視覚障害者とも刺激呈示後140ms付近に明瞭な陰性ピーク(N140)が出現していた。また視覚障害者群の場合,刺激後80msにも振動刺激が呈示された左手指の体性感覚野であるC4C4’において陰性成分(N60)が出現していた。さらに弁別条件では刺激呈示後約250ms以降の陽性成分が非弁別条件に比べていずれの群でも増大していた。図3は各刺激条件下での視覚障害者SEPから晴眼者SEPを減算した差分波形である。弁別,非弁別のいずれの条件でも,C4C4’において潜時80ms付近に陰性偏位が見られるとともに,刺激後250ms以降についても陽性にシフトしていた。この他,弁別条件においては,CZにおいてN140に相当する時間帯が陰性方向へシフトしていた。図4は各部位における有為差の出現状況である。

 

考察

本研究では皮膚の機械的刺激の一種である振動刺激により引き起こされるSEPを測定した。その結果,刺激後140ms前後に陰性ピークを示すいわゆるN140成分が被験者群,弁別の有無にかかわらず明瞭に出現していた。南ら(1989)は標的刺激に注意を向けることにより非標的刺激加算波形のN140振幅が増大していたことからこの成分は刺激同定に関わる処理過程を反映していると報告している。また,Kekoniら(1996)は標的刺激に注意をすることにより非標的刺激加算波形のN140は振幅が小さくなり,代わりに標的刺激刺激加算波形にN250が出現することを報告しており,今回の結果とは一致しない。これはKekoniらの実験が振動の周波数の違いによる弁別であるのに対し,本実験では面積による弁別の違いに関係しているのでN140の出現の仕方に違いが出たと考えられる。本研究でも,晴眼者群では弁別の有無に関わらずN140成分は安定していた一方,視覚障害者群において弁別条件において振幅が増大しており,弁別条件ではではやや振幅が増大しており,弁別負荷によって視覚障害者の刺激同定がやや変化したことを反映しているのではないかと考えられる。このことは,刺激後140ms前後の時間帯において非弁別時には晴眼,視覚障害で差が見られなかったのに対し,弁別条件では視覚障害者群が明瞭に陰性シフトしていたことからも指摘している。

一方,晴眼者では認められなかった刺激後80ms前後の陰性成分が視覚障害者においては弁別の有無に関わらず振動刺激が呈示された大脳受容野に相当する部位C4C4’において検出された点が注目された。橋本(1993)は,エアパフ刺激によって,潜時約60msの陰性成分(N60)が高振幅に出現し,この陰性成分は刺激強度の認知に関連した情報処理を反映すると報告している。本研究で用いたオプタコンによる振動刺激は,橋本らのエアパフ刺激に比べ刺激持続時間は20msほど長いために潜時も延長し,視覚障害者において刺激後80ms前後に陰性成分が出現したものと考えられる。野口ら(1995)はブラシでこする刺激を弁別させることでN60成分が増大することを示しているが刺激弁別に伴うものなのか,カウントをしたことによる,反応遂行に伴うものなのかについて単純反応との電位と比較していないので,その成分の意味は定かではない。N60は,N140P300に比べ,初期成分でありその注意効果はわずかな実験条件の違いやそれに伴う被験者の課題遂行に対する方略の変更によって,影響を受けやすい。そのような条件でも視覚障害者にのみ見られたN60成分は弁別により違いは出なかったが,弁別しても出現しているので,視覚障害者の視覚代行としての触覚として,出現した成分といっていいのではないだろうか。しかし,晴眼者においてはこの成分を検出できなかった。その理由としてエアパフ刺激に比べてオプタコンは,はるかに弱い刺激圧であることが考えられ,弱い触刺激圧でも触覚情報への依存度が大きい視覚障害者では触刺激として有効であった可能性もある。

さらに,いずれの被験者群においても弁別条件ではP300の出現が明瞭に認められたが,とりわけ視覚障害者群においては非弁別条件下でもかなり明瞭なP300の出現が認められた。Kujalaら(1993)もどの指に刺激が呈示されたかを弁別させると晴眼者および視覚障害者ともに明瞭なP300が出現することを報告している。本研究の結果はKujalaの知見を確認するとともに,非弁別条件下でも視覚障害者は呈示された振動刺激の違いを一定程度認識していることが推察された。視覚障害者は用いられた2種類の刺激がはっきりと違っていたことを実験終了後,内省報告しておりP300の出現状況は視覚障害者の優れた触弁別能力を反映しているといえよう。