PHASE9:そういうひとがいる。


私はそのひとに対して恐ろしいくらい従順だ。
たいした能力もない私に、どうしてそこまで頼るのかわからないけれど
必要とされることが嬉しくて、つい手を貸してしまう。


自分が頼めば、二つ返事で首を縦に振るという認識でいるのか、
私が稀に手を貸せないことを示すと、その人は少しむくれたり、さびしそうな顔をする。


お願い、そんな顔をしないで。


いつも笑っていてほしいのと、
「こいつは使えない」と諦められてしまうことを恐れ、結局手を貸してしまう。


他の人へも同じように笑顔をむけていること。
私も所詮その他大勢の一人であること。
もうずっと前から大切な女性がいること。
彼女以外の女と平気で肌を重ねられること。


そんな残酷な現実を教えてくれたのもそのひとなのに、
そのひとの視界に自分がいられるだけで幸せだなと思う自分はどこか歪んでいる気がする。


TPOによって誠実にも残酷にもなるそのひとのそばで
犬のように走り回れることに充実感を感じる自分は何かと錯覚している気がする。


きっと、私が望んだなら、わけてくれる。
同情に限りなく近い愛情か、愛情と間違えそうなくらいやさしい同情を
手のひらにおさまるくらい、ほんの少しの分量だけ。

そのことは、私の髪をゆっくり撫でる手から感じとれる。


でも、望んだりしない。


恋愛するのに十分な愛情はもっているけれど、独占欲はわかないから。

 

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