「世界の終わりに落日が」 赤い。 テキサスの陽が空が砂漠が、狂った神に創られた世界のように赤い。 握りしめたナイフが俺の手が全身が赤く、夕陽に染まっている。 世界の終わりに落日が、もしもあるならきっとこんな感じだ。 その光の中では誰も正気じゃいられない。 牧師はサタンに祈りを捧げ、肉屋は人々を切り刻み、王様は、 いや王様はもともと狂った奴のなるもんだ。何も変わりはしない。 狂った殺し屋は……聖人にでもなるんだろう。 仕事を終えて家路の途中、俺はいつも車を停めてこの丘に登った。 手を洗ったって、いくら洗ったって血の匂いは落ちやしない。 だが岩山の上に立ち夕陽を浴びると、身体の奥の何かが中和されていく、そんな気がした。 俺自身こうなることを望んでいたのかもしれない。 遮蔽物のない高台に独りで登るのは危険な行為だ。 修業時代にブライアンから、嫌になるほど叩き込まれたことだ。 だが四年前に奴がこの丘の上で殺された時、不思議に思ったことが今は解る。 ブライアンはライフルで背中から三発、撃ち抜かれ、赤い岩の上に血と臓物をぶちまけて死んだ。 組織は復讐をしなかった。 奴はあまりに多くの人間に恨まれすぎていた。 組織の内外を合わせて、被疑者の数は三桁に達した。 そこには俺の名前もあった。 あのリストを順に消して行ったとしたら、この町は随分平和になったことだろう。 赤い雫が顎からひとすじ流れ落ちた。 それがもとから赤いのか、夕陽がそう見せているのかは、解らない。 もう、どちらでも良かった。 何もかもが赤かった。 この世の終わりの落日に、祈りを捧げ、俺はゆっくりと跪いた。