〈リフトウォー・サーガ〉 レイモンド・E・フィースト(Raymond E. Feist) ハヤカワ文庫FT


 この〈リフトウォー・サーガ〉は、一部で『指輪物語』を越えたと賞された長編ファンタジーです。確かに、舞台となる世界の広さという点で『指輪物語』を凌ぐスケールです。その理由は、裂け目を通じて繋がったふたつの世界にまたがった物語だからです。このミドケミアとケレワンのふたつの世界の間に“裂け目戦争(リフトウォー)”が発生します。

 このふたつの世界の戦争をつづった物語が〈リフトウォー・サーガ〉なのです。しかし、実際にふたつの世界を舞台にしているのは『魔術師の帝国』と『シルバーソーン』と『セサノンの暗黒』までです。残りの『王国を継ぐ者』と『国王の海賊』は“裂け目戦争”の後のミドケミア側の物語で、『帝国の娘』はケレワン側の世界だけを舞台にした、まったく別の物語です。

 〈リフトウォー・サーガ〉は、多数の登場人物が登場する精緻な物語ですが、そのストーリーを導入部だけでも書き留めておきます。兄弟のように育ったパグとトマスは、14歳になって自分の適正にかなった職業に就くことになりました。トマスは望み通り戦士になりましたが、パグには適した職業がありませんでした。同世代の若者の中でただひとり適した職業の無かったパグを哀れに思った魔法使いのクルガンは、パグを弟子にしました。しかし、パグは自分に魔法使いとしての才能があるとは思えませんでした。そんなある日、難破船が漂着しました。実は、その難破船は、異次元世界ケレワンのツラニ帝国人が侵略してくる前触れでした。

 この導入部なのですが、ハッキリ言ってつまらないです。しかし、導入部が終わると物語は急展開し始め、断然面白くなります。ふたつの世界を股に掛けて、『セサノンの暗黒』にいたっては、単なる異次元人の侵略というレベルを超えた展開を見せます。

 最初の巻『魔術師の帝国』の上巻ではパグとトマスというふたりの少年を中心に物語が進み、下巻ではふたりのもう一つの側面であるミランバとヴァルヘル族に焦点が当てられます。

 『シルバーソーン』ではパグとトマスは脇に引っ込みます。このころの作者のフィーストは、少年の感性や視点が好きなようで、パグとトマスの両少年に代わり、ジミー少年が登場します。

 そして、『セサノンの暗黒』で物語に一応の決着が付くのですが、フィーストはよほどミドケミアの世界が気に入ったのか、主人公を変えて20年後の物語『王国を継ぐ者』と、さらに10年経過した『国王の海賊』を書き上げました。この物語は、まだまだ続きそうです。

 さらに“裂け目戦争”とほとんど関係がないケレワンの物語として、『帝国の娘』をJ・ワーツと共同で書き上げました。〈リフトウォー・サーガ〉は、幾多の登場人物が登場し、物語の主人公もころころ変わる長い物語なので、読んでいると「この人、いったい誰だったの?」と首を傾げるほど影の薄い人物も登場します。しかし、『帝国の娘』は主人公のマーラに焦点を絞り、彼女の心情の動きと成長を描いた大変優れた作品です。本編の〈リフトウォー〉よりも、私はこちらの方を気に入っています。ただし、残念なのは品切れ絶版状態にあることでしょう。

 さらに、ミドケミアは中世ヨーロッパ風の世界、ケレワンは東洋風の世界だそうですが、とてもケレワンが東洋風の世界には感じられません。きっと、私が住んでいる所とは別世界の東洋なのでしょう。敢えて言えば、ツラニ帝国の軍事大臣が将軍、それぞれの一族が武家の一門を思わせるくらいでしょう。

 さて、〈リフトウォー・サーガ〉の主人公がころころ変わると書きましたが、全体を通しての主人公は誰かというと、やはりパグだと思います。主人公が魔法を学びはじめると、最後には偉大な魔法使いになるのは、ファンタジーのお約束でしょう。それで、魔法という摩訶不思議な力を使えるようになり、しかも偉大なという形容がつくほどならば、何か障害があっても、魔法の力で解決できてしまいます。そのため、物語がトントン拍子に進んでしまい、まったく面白くもないストーリーになるでしょう。〈リフトウォー・サーガ〉だと魔法の力に限界はないそうですから、なおさらです。そういうわけで、ストーリーにメリハリをつけるため、パグは裏方になる必要があります。

 魔法(魔術? 魔道?)なるものが登場するファンタジーでは、制限なしに魔法が使えると、いろいろ困ったことが起きるので、何らかの制限を魔法に加えるのが普通です。なかには制限なしで使えて、困ったことが起きるのを楽しむというストーリーもあります。

 その制限なのですが、主人公に魔法が使えないという設定が一番多いような気がします。これだと、魔法使いは要所要所に出てきて、物語の道しるべのような役割を果たします。主人公が苦労している間に魔法使いは何をやっているんでしょうねぇ(不思議だなぁ)。〈リフトウォー・サーガ〉は、このタイプだと思います。魔法というのは何かの不思議な力だから、魔法にどのような制限があるのか主人公(と読者)には、まったく見当がつかないと言うのが多いと思います。

 あと、主人公(または主人公御一行様)が魔法が使えると、もっとハッキリとした制限が付くようです。例えば、ひとつしか魔法を使えないとか、強力な魔法は使えないとか(この場合はより強力な魔法を探求することがストーリーの一面を占めたりします)……。これらは、設定上の魔法のルールとして制約ができているのです。そのほかに、魔法が使えない状況になっているという場合もあります。例えば、魔法を使うと居場所が分かるから隠密行動に支障をきたすとか、冗談で魔法を封じたら解除できなくなったとか……。

 このように、どんなカセが魔法に付けられているかを観察するのもファンタジーの楽しみだと思います。その点、〈リフトウォー・サーガ〉は魔法の力に限界が無くて、大魔法使いが主人公達の裏でやっていることもハッキリしているのは、珍しいというか……なんだか居心地が悪いです。

 最後に〈リフトウォー・サーガ〉の良いところをまとめると、緻密な構成と、起伏のあるストーリー、思わず関心しまう結末。そして、ちょっとピントがずれた異国情緒でしょう。


Notes
 『魔術師の帝国』(上)(下) Magician ISBN4-15-020060-2、ISBN4-15-020061-0
 『シルバーソーン』(上)(下) Silverthorn ISBN4-15-020098-X、ISBN4-15-020099-8
 『セサノンの暗黒』(上)(下) A Darkness at Sethanon ISBN4-15-020107-2、ISBN4-15-020108-0
 『王国を継ぐ者』 Prince of the Blood ISBN4-15-020208-7
 『国王の海賊』(上)(下) The King's Buccaneer ISBN4-15-020215-X、ISBN4-15-020216-8
外伝(J・ワーツとの共作) Raymond E. Feist and Janny Wurts
 『帝国の娘』(上)(下) Daughter of the Empire ISBN4-15-020126-9、ISBN4-15-020127-7


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