『光と闇の姉妹』 ジェイン・ヨーレン ハヤカワ文庫FT ISBN4-15-020155-2
『白い女神』 ジェイン・ヨーレン ハヤカワ文庫FT ISBN4-15-020157-9
Sister Light, Sister Dark / White Jenna; Jane Yolen
1999年2月現在、この『光と闇の姉妹』と『白い女神』は絶版となっています。絶版になっている物を紹介するのはなんですが、大変気に入っている作品なので、ここに書き留めておきます。『光と闇の姉妹』が前編(第一の書)、『白い女神』が後編(第二の書)です。後編の『白い女神』の最初には「これまでのあらすじ」が収録されていますので、これだけ読んですますことも可能です。どうしても『光と闇の姉妹』が手に入らないときは、あらすじを頼りにしてください。
作者のヨーレンは、アメリカのアンデルセンと称される児童文学の大御所です。『水晶の涙』(同じくハヤカワ文庫FT)などのリリカルなファンタジーで知られています。しかし、この作品の基調をなすのは、児童文学から縁遠いフェミニズムです。これが出版された当時は、フェミニズムのファンタジーにいささか飽食気味だったため、あまり読む気がなかったのです。しかし、いざ読んでみると大変素晴らしいファンタジーでした。
いつもならファンタジーの代名詞の代わりに「物語」という言葉を使うのですが、この作品に限っては「物語」という表現は不適切です。それは、この作品中では物語が視点のひとつとしてしか取り扱われていないからです。登場人物や彼らが住む世界がリアルに語られる物語、それが人々の間で伝えられて変形していった伝説、信仰の対象としての神話、そして後世の歴史家たちが事実と認めた歴史。こうして、この作品は4つの側面から描かれているのです。ヨーレンは、こうして複数の方向から光を当てることで、題名にある「光と闇」を描き出そうとしました。特に、登場人物たちが生きて作り上げた物語と、後世の歴史家たちが過去の事実を探ろうとして資料から再構成した歴史との対比は絶妙です。
もちろんこのような多数の側面から描き出す手法は、物語をより豊かにするために取り入れたのでしょう。ただ一つの側面から見ていたのでは分かりにくい事柄も、多方面から光を当てるとハッキリと見えだします。事実、この作品も物語の段階からでは分かりにくい時代の背景も、歴史の視点から眺めると、何となく見えてくるという構成になっています。
また、物語のパートで描かれた事柄が長い年月を経て人々に伝えられていくうちに、伝説に変わった姿が語られています。実際、簡潔に語られている伝説となった事柄は、元になった物語のパートの話と異なるのですが、その変形した姿に想像力(ファンタジー)を感じることができます。
さらに物語に豊かさを加えるため、〈谷〉の知恵という「ことわざ」と〈谷〉の音楽を付け加えました。『白い女神』の巻末に〈谷〉の知恵として、ことわざ集が付いています。また、各巻のには〈谷〉の音楽の楽譜が付いています。それで、この〈谷〉の音楽がどういう曲なのかは別のページ(まだ完成していない)を見てください。
訳者の井辻朱美さんは「訳者あとがき」の中で、このような試みを「ファンタジーがファンタジーであることに自覚的であろうとした実験作」と述べています。(なお井辻さんの「辻」の部首は「辷」の主部と同じです。)
ヨーレンが描いた『光と闇の姉妹』と『白い女神』は、大昔のイギリスを強くうかがわせる〈島〉の〈谷〉と呼ばれる地方を舞台としています。大陸からやってきたガルニア人たちが〈谷〉の先住民の男たちを殺し、女性の人口比率が高くなってしましました。それで女児の誕生が歓迎されなくなったとき、捨てられた赤子を拾って、郷と呼ばれる女性だけの閉鎖的な社会で育てる人たちが現れました。この郷では、〈谷〉に古くからあるアルタ女神の信仰が生き、「3人の母親を持つ白い赤子が長じて女神となり、この世に終わりと新しい始まりをもたらすだろう」との予言が伝えられていました。
それで当然のごとく主人公のジェンナは生まれたときから白い髪の白子で、3人の母親を持っていました。『光と闇の姉妹』は、ジェンナが生まれてから予言に歌われた存在に成長する過程を描いています。セルデン郷での生活や、カルム少年との出会いなどを描いています。しかし、この巻で最も重要なことはスカーダに出会うところでしょう。スカーダは、ジェンナの親友、ジェンナのことを最も理解している人物、ジェンナの闇の妹なのです。つまり、表題にある光の姉 (sister light) はジェンナで、闇の妹 (sister dark) はスカーダのことなのです。この光の姉と闇の妹という題材は、かなり重要なウェイトを占めていますので、まだ読んでいない人のために詳しく書き留めません。
そして『白い女神』では、成長したジェンナが「この世に終わりと新しい始まりをもたらす」ことが描かれています。どうやって成長したのかという点と、この世の終わりと始まりとはいったい何なのかが見所です。最後は何とも言えない読後感があります。
この『光と闇の姉妹』と『白い女神』を読んだ後、色々と考えさせられました。内容に関係することではジェンナがもたらした終わりと始まりについて、あまり関係のないことではファンタジーとは何かというところです。それを解釈するヒントがあります。物語の中で何度も出てくる「予言をはすに解釈しなければならない」という言葉です。
終わりと始まりは、お互いにはすに組み合わさった事柄に過ぎません。また物語と歴史は、ひとつの事柄をはすに解釈した結果なのでしょう。そして、空想(ファンタジー)と現実は、お互いをはすに眺めただけなのかもしれません。