『血のごとく赤く』 ハヤカワ文庫FT ISBN4-15-020232-X
タニス・リー
Red As Blood : Or Tales from the Sisters Grimmer; Tanith Lee
タニス・リーの短編集です。『幻想童話集』という副題が付いています。英語の原題には「グリマー姉妹によるお話集」と副題が付いています。つまり、グリム兄弟でおなじみの童話集のもじりというわけです。そのため、これに収録された短編は、『ハーメルンの笛吹き男』や『赤頭巾』といったおなじみの物語の焼き直しとなっています。
タニス・リーは <平たい地球> のようなシリーズものが有名ですが、その本領は短・中編により多く現れるといっても過言がないでしょう。 どちらかというとタニス・リーはストーリー・テラーでなく文章で読ませるタイプの作家なので、長い物語でも短いエピソードを重ねて、一つの壮大な物語とすることが多いようです。ですから、全体の流れと無関係に物語を語ることができる短・中編は、タニス・リーの特色が濃く現れています。この『血のごとく赤く』のような短編集もそうですし、(残念ながら絶版になった)『冬物語』のような中編集もそうです。
さて、この『血のごとく赤く』は、よく知られた童話や民話の再話なのですが、本来の舞台と異なる時代(紀元前から未来まで)と場所を新たに選び、全くの『新しい物語』となっています。ただ、同じなのは舞台に上る小道具だけです。たとえば、『ハーメルンの笛吹き男』ならば笛とネズミ、『赤頭巾』ならば赤いフードとオオカミです。それぞれの小道具は新たな役割を与えられ、タニス・リー独特の妖しくも美しい世界によみがえっています。
本来、童話や民話は残酷な物語でした。ペローが収集した『赤頭巾』はオオカミに食べられてしまいますが、そこに猟師を登場させて助け出したのはグリム兄弟です(最近は、本来の物語もよく知られるようになったようですが……)。しかし、どうやらタニス・リーは、「めでたしめでたし」で終わる物語が嫌いらしく(リー作品で「みんな幸せになりました」という結末を迎えるのは珍しい)、この短編集に収録された作品のほとんどが残酷な結末を迎えます。残酷な結末でなくても、「これで本当に主人公は幸福になれるのか」と考えさせられる終わり方です。そんなところがタニス・リーの作品が持つ雰囲気なのですが、そんな昏い雰囲気が多少『古風』なファンタジーと感じるかもしれません。
それで、この雰囲気を端的に表しているのが、この短編集の題名『血のごとく赤く』でしょう。たんに「赤い」のでなく、「血のように」でもなく、「血のごとく」なのです。このいささか古風で強烈な色彩を放つ表現が、文章で読ませるということなのです。もともと英語で書かれた作品を日本語に訳すとき、こんな表現ひとつひとつを翻訳者の方々は丁寧に訳してくださっています。そんな苦心をなさって訳された方に感謝の意を込めて、このページの終わりに収録作品と訳者の紹介をします。(これらの収録作品の中で、私の個人的なお勧めは「狼の森」と「墨のごとく黒く」です。あくまでも、個人的にですが……。)
なお、タニス・リーの作品は、よく「耽美」だと賞されます。耽美系が好きな人は、ほかの作品もチェックしておくことをお勧めします。
『血のごとく赤く』(グリマー姉妹によるお話集) 収録作品
報われた笛吹き (アジア 紀元前) Paid Piper (室住信子訳)
血のごとく赤く (ヨーロッパ 14世紀) Red As Blood (室住信子訳)
いばらの森 (ユーラシア 15世紀) Thorns (木村由利子訳)
時計が時を告げたなら (ヨーロッパ 16世紀) When the Clock Strikes (木村由利子訳)
黄金の鋼 (ヨーロッパ 17世紀) The Golden Rope (木村由利子訳)
姫君の未来 (アジア 19世紀) The Princess and Her Future (木村由利子訳)
狼の森 (スカンジナビア 19世紀) Wolfland (木村由利子訳)
墨のごとく黒く (スカンジナビア 20世紀) Black As Ink (木村由利子訳)
緑の薔薇 (地球 未来) Beauty (木村由利子訳)