オヤシラズ
第一波が訪れたのは2004年の冬である。
右下の奥歯が痛む。
噛み合わせがずれている。
ような気がした。
が。
様子を見ていたら収まったので、
そのまま放っておいた。
ミ☆
2005年4月。第二波。
痛い。
痛い。
痛い。
明らかに噛み合わせが合っていない。
指で触ってみると、
例の奥歯だけ、他の歯よりも出っ張っている。
2〜3ミリか。
いや、感覚的な数字だが。
咀嚼は、食べ物自体の厚みがあるので、なんとかなる。
が、カラの状態で閉じると、、、いや、閉じられない。
奥歯だけがくっつく。
強引に閉じると激痛が走る。
ミ★
様子見してみる。
翌日。
痛みが、収まらなくなった。
少しすると痛みは消えていたのだが、
そのまま残るようになってしまった。
試しにぐいっと噛みしめてみる。
痛い!
むむ、痛みが引かない。
痛みが蓄積する。チャージ系か。
脳ミソを巡る言葉が単純になる。
痛い、痛い痛い痛い痛い痛い痛い、痛い!
歯医者の診察カードの発掘にかかる。
ミ☆
お楽しみの診察結果は次の通り。
右下の親不知が活動を始めた。
そいつが右下の奥歯を押している。
ゆえにその奥歯の位置がずれ、噛み合わせもずれた。
さらに。
その奥歯が虫歯。
で、噛むたびに、そこの神経を刺激して、以下略。
ミ★
先に奥歯の治療をしましょう。
ガリガリ削って、神経を殺して。
それなりに深かったそうだ。
で、医者が言うには。
奥歯は神経が3本あって、全部殺したから、痛いからね。
だって。
他の歯の神経の数は知らないが、
まぁ、それ以下なのだろう。
さて。
さてさて。
確かに。
ああ、確かに。
痛かったよ、うん。
分かってるんなら薬出せっちゅーねん。
気休めにバファリンを飲んで、寝る。
いや、痛くて眠れない。
畳の上でしばらくのたうっていた。
ミ☆
その日は幸いヒマだったので、
午前中に歯医者へ行って、午後から出社する予定だった。
のだが、それどころじゃないよ〜、ってなことで、休むことにした。
まぁ、お約束で、なにかあったら連絡ちょうだい、と。
で。
こういうときに限って、その「なにか」があるのだから、
世の中にその辺りを操っている何者かがいるとしたら、
そいつは絶対に意地悪に違いない、などと、
空想を罵ってみても歯の痛みは収まりはしない。
耐えながら対応。
ミ★
何回か通って、奥歯の治療も落ち着いて。
じゃぁ、と、その歯科医、変に嬉しそうに。
抜きますかね、次回、オヤシラズ。
必ずしも抜かなくても良いものらしいが、
出てきてしまったものは仕方が無い。
奥歯の邪魔もしているし、虫歯の原因にもなるし、と。
そうですね〜、と答えて、口をゆすぐ。
ミ☆
さて、その日。
先に奥歯のふたを被せて、
ちょっと待っててくださいね〜、と、歯科助手の人。
しばし待つ。
歯科医師の気配。
お待たせしました。
あ、ども。
さあて、いきますか。
指示に従い、口を開く。
水避けという名目のタオルが口の周辺にあてられ、
視界が塞がれ、歯科医も消える。ベタだな。
左手から歯科助手の声。
痛かったら我慢してくださいね〜。
とは、さすがに言わないが。
ミ★
その昔に別のオヤシラズを退治したときには、
笑気ガスをしばらく吸わされた。
リラックスさせるためだそうだ。
今回もかな、と、思っていたのだが、そんなことはなかった。
治療はサクっと始まった。
ちょっとチクッっとしますよー。
麻酔の針がちくちくちく。
がっ!
と、奥歯とオヤシラズの間に衝撃。
効き始めた即効性の麻酔のお陰か。
素なら、鋭い痛みが走ったはずだ。
なにやら頑丈な器具が使われている気配。
相対的に繊細でない治療なのだろうから、
その手の動きもダイナミックになるのだろう。
ぐりぐりぐりぐり。
ぐらぐらぐらぐら。
ぐりとぐら。違う。
引っぱって。
削って、引っぱりやすくして。
これは想像だが、外れてはいまい。
引っぱって。削って。
引っぱって。
引っぱって。
ぱきゃ☆
てな音がして、抜歯完了。
この間、恐らく3〜5分。
もっと短かったか、
もう少し長かったかもしれない。
飽くまで感覚の時間だが、
あっという間に抜かれた、という印象。
ミ☆
はい、抜けましたよー。
指の先に、朱をまとった乳白色の物体。
さらば、オヤシラズ。
その後に口をゆすいだ時の血の色と、
縫合の時に、くちびる付近を這っていた糸の感覚で、
小規模とはいえ外科手術なのだと、改めて実感。
さらば、オヤシラズ。