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風下の不利


  ちょっと汚い話。

  時間帯は22時少し前。
  有楽町線、小竹向原での乗り換え。

  奥の方に乗っていたので、
  ホームに出た頃には発車のベルが鳴っていた。

  ん?

  乗り換えの人の流れの中に、静止した人影が2つ。
  ほぼ正面、1人は前屈み、もう1人は介抱中。

  異臭。

  直径1m弱の円状のアレが、2つ3つと並んでいる。
  彼らの過去30秒くらいの様子が手に取るようにわかる。

  迂回。

  正面のドアでは臭いが漂ってきそうだったので、
  1つ、‥‥いや、と、思い直して、2つドアをずらし、乗車。

  ベルが鳴りやみ、すぐにドアは閉まった。

     ミ☆

  月に1回くらいは出くわす光景ではある。
  ちらと見た感じでは、酒の飲み過ぎのようではあった。

  あの、床に広がったブツの始末はどのように?

  などと考えようとしたら、異臭。
  しまった、風下だ。
  進行方向の後方に乗ってしまった。

  現場近くに漂っていた空気が流れてきたか。

  様子見。

  臭い。

  もう少し様子見。

  まだ臭い。

  もうちょっと様子見。

  まだまだ臭う。

  むむむ?

     ミ★

  文庫本で鼻を覆う。
  紙とインクの香り。

  ‥‥プラス、異臭。

  風上を眺めると、口元にハンカチをあてている人がいた。
  異臭は消えず、車内は妙に静かである。

  乗った、のか?

  乗りやがったのか?!

  隣に立っている男性は、顔をしかめ、壁の広告を睨んでいる。
  斜め前の女性は、うつむき、伝染の可能性がちらつき始めた模様。

  それほど、考えはしなかった。

  何をするかをさっさと決め、
  ひたすら呼吸を抑えていた。

     ミ☆

  次の駅で下車、急いで隣の車両へ、風上へ移動。

  途中、偶然か必然か、
  犯人、いや、原因を目撃。

  すぐ隣のドアだったので、
  その付近に乗っていたということだ。

  道理で。

  というか、先に、ドアを2つずらしていなかったら、
  ふむ、大変なことに‥‥、まぁ、ならんだろうけど。

  3つ目のドアに飛び乗ると、また背後でドアが閉まった。

  ふぅ。

  栞を抜きながら、少し深めに息を吸ってみた。
  恐々、鼻に少しずつ空気を流してみた。

  なぜか、煎餅の臭いがした。


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