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初体験×2


  初体験というと、まぁ、色々な含みのある言葉であるが、
  見方を変えてみると、毎日が初体験の連続と言えないこともない。

  万物は流転するのだ。(ヘラクレイトス)

  とはいえ、そんな言い方は正しくなかろう。
  初めてという、特別な状態を指して初体験と呼ぶのだから、
  全てがそれに当てはまるなら、そんな単語は必要がない。

  ま、それはそれ。

  初体験が短時間で2つ続いたので。

     ミ☆

  歯医者へ行った。

  どうも私は歯が弱い。

  いや、日頃の食生活や諸々が悪いのだろうが、
  小さい頃から歯医者の世話になりっぱなしだった。
  両親とも御同様なので、遺伝かもしれない。

  土曜日、二度寝を我慢して、掛かり付けの歯医者へ。

  その昔、親不知が痛んで飛び込んでからなので、
  もう3年くらい、不定期だが、通院を続けている。

  受付を済ませ、文庫本を開くと、
  珍しく、数行読んだだけで名前を呼ばれた。

  治療室へ。

     ミ★

  前回治療したところは、お痛みはありませんか?
  ええ、大丈夫です。

  その他は?
  特に。

  当たり障りのない、毎度お馴染みの会話である。
  会話というより、治療の一部であろうが。

  シートに座り、使い捨てのエプロンをつけられる。
  いや、エプロンというより、よだれかけだね。

  今日は右の前歯ですね〜。
  はい。

  眼鏡、お預かりしますね〜。
  あ、お願いします。

  あとは歯科医師が回ってくるのを待つだけ、と、
  ゆったりとシートに沈み込もうとした、その時。

     ミ☆

  暖かくなりましたね〜。

  ん?

  一瞬、躊躇。

  ええ、あ、いや、えーと。
  あら?

  その日は2月下旬、もうすぐ3月とはいえ、
  確かに暦の上のイメージでは春めいてくるが、
  実際にはまだまだ冬の厳しさが残っているし、残っていた。

  寒かったですか?
  ええ、まだ寒いですね、それに、雨降ってますよ。

  え!
  まぁ、降り始めのぱらぱらで、
  傘がなくても平気なくらいですけど。

  あらら、降るのは夜になってからって言ってたのに。

  と、ぶつぶつ言いながら、席を離れた。

  歯科助手(?)さんと世間話(?)をしたのは、
  長い歯医者通いで、初めてであった。

     ミ★

  もうちょい続き。

  歯科医師が来て、軽い説明の後、麻酔。
  口を開けて、針が、ちく、ちく、ちく、ちく。

  口をゆすいで下さい〜。
  麻酔が効くまでちょっと待ってくださいね〜。

  麻酔も効いたが、さっきの会話も効いているらしい。
  場は、微妙に和んでいる。

  シートが倒され、治療を待つ緊張の時間。

  ぱらぱらと、紙をめくる音。

  あら。

  歳、いっしょですね。
  へ?

  ああ、でも、早生まれなんですね、私の方が年下ですね〜。

  声の方に顔を向けてみたが、
  銀色の凶器越しに、白衣の一部が見えただけだった。

  へ〜、そうですか〜。

  ここはお世辞の一つでも言っておくべきか。
  いや、でも、顔が見えないし、なんとも。

  へ〜、そうなんですか〜、ふ〜ん。

  と、一人で勝手に納得してる模様。
  何が言いたいのかは察しが付く。

  まぁ、年下に見られることはありませんけどね。
  課長とか部長とか言われますし。

  などと返そうと思ったら、医者が来たので、
  この妙なやりとりはおしまい。

  とまれ、空気が和んだのは確かである。

     ミ☆

  件の歯医者は某ヨーカドーの近所にある。

  予約が9時半で、治療その他で30分弱、
  某ヨーカドーの開店時間が10時。

  色々と買うものがあったので、
  その足で某ヨーカドーへ。

  と、入り口に人だかり。
  時計は、ちょうど10時。

  生まれて初めて、
  この手の店の開店に立ち会った。

  まぁ、珍しくともなんともないか。

     ミ★

  動き始めた列の後ろに続き、
  おそらく30番目くらいで入店。

  入り口正面のエスカレータに乗り、
  なんとなしに店内を見回す。

  ありゃま。

  店員さん、それぞれのブースで、入り口(?)に直立。
  客が通るたびに、いらっしゃいませ〜、って。

  へ〜。
  大変だね〜。

  3階まで上がり、本屋へ。

  何度か、見張り番みたいに突っ立ってる店員に、
  いらっしゃいませ〜、と。

  本屋をぶらつきながらも、
  遠くから同じ声が聞こえてきた。

  いつまでやってんだろ?

  調べるほどヒマではないので放っておいたら、
  いつの間にやら終わっていた。

  まぁ、悪い気分じゃぁないけど、
  なんとなしに、歯がゆいなぁ。

  などと考えていたら、
  早くも麻酔が切れたらしく、歯が痛くなった。


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