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それ以前の問題


  プログラムが暴走することは珍しくはない。
  無限ループの経験のないプログラマなんていないだろう。

  バグを生み出すことを罪に数えるとしても、
  その罪は、決して重い物ではない。

  もちろん、意図的なそれは別だが、ともかく。

  プログラミングは、ひとつの創世である。
  動け、という命令から始まって、終了条件に達するまでの、
  或いは強制的に止められるまでの、ささやかな微小世界。

  この世の中を創ったという神様とやらの緻密さには、
  言うまでもなく、比べ物にはならない。

  人間誰しも間違いはあるさ。

  何度この台詞を耳にしたことか。
  幸い、やり直しの効く世界である。

  バグは、つぶせば良い。
  つぶせば、その罪はチャラになる。

  しかし、バグを放置するという罪は、重い。

  いや、あれはプログラムのバグではなかったのだろう。
  プログラマのバグ、プログラマがバグだった、か。

     ミ☆

  20時頃だったと思う。

  聴覚の隅で紙切れを知らせる電子音を聞いていた。
  視覚の隅で用紙を補給する誰かの姿を見ていた。

  これが何度か繰り返された。

  そのプリンタの近くには帳票の開発チームがいる。
  そーゆーテストの時期である。
  別に珍しい光景ではない。

  あっちの世界に浸かっていなかったなら、その周期がやけに早いのと、
  プリンタがずーっと動きっぱなしだった事に気付いたかもしれない。

  いくらテストといっても、
  1時間以上も印刷が続くことは滅多にない。

  プリンタの近くで声があがった。
  なにやら事件があったらしい。

  名指しで罵る声。
  それを肯定する声と、苦笑。

  しかし犯人は既に帰社。

  不在の人間の非難するのは、あまり褒められたことではない。
  が、今回の事件は、彼が不在であること自体が問題であり、
  また、そうされて然るべき事態であることは明白であった。

  帳票をプリントアウトした。
  枠だけで中身が空っぽの、テスト印刷だったらしい。
  印刷時に指定した部数が、1234部だったらしい。

     ミ★

  コンピュータとゆーものは、
  馬鹿とか利口とか、それ以前の存在である。
  命令されたことに素直に従うことしかできない。

  お馬鹿なソフトとはコンピュータがお馬鹿なのではなくて、
  そのソフトを創ったプログラマがお馬鹿なのである。

  よく、自分で創ったプログラムを指して、
  ちょっと見てくださいよ、なんか動きが変なんですよー、
  などと言って来るヤツがいるが、
  コンピュータはそいつに言われた通りに振る舞っているだけで、
  変なのは、コンピュータではなくてプログラマなのである。

  確かに色々な意味で変なプログラマは多いが、ま、それはそれとして。

  4桁の数値項目に1234てな値を放り込むのは、よくやる。
  その項目が何を意味するのかをよく考えずに設定してしまったのかもしれない。
  まぁ、気持ちは分かる、許せないこともない。許容範囲である、そこまでは。

  が。

  プリントアウトを指示した。
  1枚出てきた。
  枠がうまくできている、よしよし。

  ん?
  次の紙もまた同じ枠だ。

  どうしたんだろう?

  などと、彼が考えたかは、知らない。
  しかし、机の上にはその枠だけの紙がざっと50枚ほど載っていたのだから、
  何かをやらかしてしまったらしい、とゆーことは分かっていたはずだ。

  つーか、知らないとは言わせない。
  知らないと言うのなら、どんな根拠を示すのか、明日が楽しみだ。

  印刷ジョブを殺せば済む話なのだが。
  殺し方を知らないなら、知っている人に聞けば良いのだし。

     ミ☆

  開発用のレーザプリンタは、はて、毎分何枚だったろうか。
  5秒に1枚として毎分12枚、って所だったか。

  この場合、1200枚の印刷には100分、1時間40分。
  もう少し速いかもしれないが、用紙交換の手間なども含めて、
  少なく見積もっても、ざっと1時間、

  その間、他の作業の邪魔をし続けたことになるし、
  近くの誰かも、ちまちまと紙を補給し続けていた訳だ。

  まぁ、何かのトラブルを引き起こしてしまい、
  他の迷惑になるとゆーこともよくあることである。

  けれどそれは、当人がそこにいてこそ許せるものだ。

  誰かが気付いたのは、その1234枚の末期で、
  とりあえずそのジョブは殺したものの、
  見せしめ、と、彼の机の上に置かれた紙の厚さよ。

  確実に10cm以上はあった。

  その時は知らずに、未使用500枚の束の厚さを思い出し、
  間に入る空気を考慮して、1000枚くらいかな、と見当をつけた。

  或いは、放っておいたら、
  1234枚以上の印刷が続けられていたかもしれないし、
  既にその数字は超えていたのかもしれない。

  私自身、学生の頃に5565枚の印刷をオーダしたとゆー記録があるが、
  サーバが異常に重くなったのですぐに気付き、
  その時は50枚程度の被害で済ますことができた。

  いま、50枚なら、うーむ、参ったな、気を付けよう、だが、
  その頃はもっともっと紙を大切にしていたので、
  罪悪感が薄れるまでしばらくかかったし、
  今でもその事件が、形を変えて、
  脳ミソの片隅にへばりついている、へばりつかせている。

  さぁて、どーなることかねぇ。


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