皿洗い
小学1年の時だったと思う。
同じクラスの友達2人と歩いていた。
彼らは同じ幼稚園出身で家も近所。
対して私は、幼稚園をパスした為なのか元々の特性なのか、
口を閉じたまま、並んでにぎやかに喋る背中に従っていた。
妙なことを考えていた。
女の子の名前である。
後ろに「子」が付く名前が多いよね。
そこから始まって、
他には?、と連想が進んだらしい。
変なことを考えるものである。
「美」と「代」を思いついた。
前者は同じクラスにいたが、後者は不明。
どこで拾ってきたのだろうか。
とにかく、3つの漢字、いや、音が集まった。
それ以上思いつかなかったのか、
それとも頭の中で何かが繋がったのか。
その3つを並べてみたらしい。
「子」は基本的に最後である。
これを初期条件としたようだ。
この場合、パターンは6つであるが、
2文字構成は思いつかなかったらしく、
また、同じ文字を2回使うほどヒネた子供ではなかった。
引き算して、残り2つ。
「美代子」、もしくは「代美子」。
先に謝っておこう、全国の美代子さんへ。
世間を知らない小学1年生のタワゴトです、ご容赦を。
よみこ?、そりゃぁないだろう。
みよこ?、ああ、よくある名前だね。
今ならそう思うだろう。
しかし。
「よみこ」はとにかく却下されたらしい。
「みよこ」という単語は、当時の脳ミソには存在せず、
また、どーした訳か、それを奇異に感じてしまったらしい。
で、よせばよいのに。
みよこ?、変な名前〜。
などと口に出してしまった。
しかも、普通の大きさの声で、更には、唐突に、脈略もなく。
刹那、前の2人が振り返った。
私が突然しゃべったから、ではなかった。
小説よりも奇なりとは、正しくこのことだろう。
偶然にも、
その2人の母親の名前が、2人とも「美代子」だったのである。
ほぼ同時に「変な名前で悪かったな!」と。
私としては「?」、目を白黒させるしかない。
初めて聞いた、どころではなく、
自ら考えて作り出した名前が、なのだし。
その時の情景はよく思い出せるが、
その後に何が起きたかは覚えていない。
ただ、その場所は彼らの家の近くであり、
どちらかの家へ遊びに行く途中、という風情だったので、
たぶん、その、どちらかの美代子さんに会っているのだろう。
なんてことを、皿を洗いながら、ふと、思い出した。