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ラーメン


  あまり整理されていない机とその周辺でも、
  それなりの変化があれば それなりに気が付くものらしい。
  自分のではなく、他人のでも、だ。

  対面の同僚ごしに見える隣のシマ。
  会社は別であり、且つ仕事上の関わりも皆無なので、
  お互い、顔は知っているけどね、という程度のK氏。

  PCの乗った会議机の足元に、見慣れない袋。

  縦は80cmくらいあったろうか。
  幅は40cmくらいの、やけに縦長のビニール袋である。
  何かが詰め込まれている。

  なんとなしに眺めてみた。

  む、あれは……、カップラーメン、だな。

  ドンブリ程度の大きさの物体がかの袋を満たしていることは、
  数メートルの距離をおいても容易に見て取れた。
  また、その表面にプリントされた、
  いかにもそれっぽいデザインが微かに透けている。

  ああ、残業か、いや、徹夜なのかな、さみしいなぁ。

     ミ☆

  何度か書いたかとは思うが、
  私は基本的に自分の会社にはおらず、
  よその会社に常駐していることが圧倒的に多い。

  今の会社はもうすぐ3年になるが、
  自社内で仕事をしていたのは3〜4ヶ月程しかない。
  もっとも、些事に囚われずに仕事に専念できるのは、
  飽くまで私個人としてだが、プラスであると考えている。

  まぁ、面倒くさがったり雑用を避けたりとゆーのも一面の真理。

  滅多に帰社はしないのだが、たまに帰ると、それは大概は夕方過ぎなので、
  事務所のあちらこちらで、控えめに、あるいは無造作に大胆に、
  ずるずるずるっ、っと、ラーメンをすする音が聞こえてくる。

  唯一の同期入社であるKはその常習犯で、
  また、その社内のカップラーメン普及への貢献度は計り知れない。

  もっとも、その布教手段はいたって簡単である。

  とりあえず一杯のラーメンをすする。
  辺りに響く音、広がる、独特の薬品臭さを含んだあの匂い。

  いまやラーメンとカレーは日本の国民食である。
  しかも、どちらかとゆーと陰気なコンピュータ業界、
  カップラーメンが嫌いなヤツなんて、モグリであろう。

     # 偏見です。

  思わず目が合う、Kと、食欲のトリコと化した社員。
  と、微妙に間を空けてから、彼はささやくのである。

  食べる? あるよ?

  Kの足元にもカップラーメンの山があった。

     ミ★

  冒頭のK氏に戻る。

  残業対策かと思いきや、
  以外にも別の展開があった。

  昼休み、文庫本越しに、K氏が例の袋に手を伸ばすのが見えた。
  と、中からカップラーメンを3つばかり取り出し、
  積み上げ脇に抱え、隣のシマへと歩いていった。

  眼球だけで追いかけてみると、
  向かった先は私の直接の上司であるC氏の席である。

  が、ちょうど洋服ハンガーが間にあり、
  また、話し声も小さかったので、会話の内容は聞き取れなかった。
  とはいえ、それなりの笑い声が聞こえてきたのは確かである。

  ふむ?

     ミ☆

  その夕方。

  聞くと、K氏、都内某所でカップラーメンの大安売りに出くわしたそうで、
  なにはともあれと買い込んだのは良いのだけれど、
  原産国は大韓民国、もちろん説明その他はハングルで、読めやしない。

  C氏は、そう、在日韓国人である。

  Cさん、Cさん、ちょっといいですか?
  はい、なんでしょう?

  これって……。
  ん?
  なんて書いてあるんですか?

  てな具合に例のカップラーメンを見せたらしい。

  C氏に直接確認したところ、
  普通に食べられるものだったとのこと。

  よかったねぇ、Kさん。

     ミ★

  ……なんて、こんな話は深夜に書くもんじゃないな。
  食欲が刺激されて、いや、これから食べたら確実に太るぞ。

  ふぅ。


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