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旭川 → 名寄


  ■ 7月18日(土)

  学生の頃、スケジュールは予算次第だった。

  幸か不幸か、大学生の夏休みは長い。
  そして幸か不幸か、フトコロは、寂しい。

  貧乏旅行の話は尽きないが、私の脳ミソには、
  そのほとんどは結局、甘えとしか映らない。

  確かに、少なくとも日本国内ならば、
  余程のことでもない限りのたれ死ぬなんてことは無いだろう。

  よく言われるように、勇気と無謀とは紙一重である。

  計画性のない旅は、無謀以外の何者でもない。
  「考えない」と「考えられない」は別物なのだ。
  最初から他人をあてにした計画など、苦笑の種でしかない。

  大雑把なりにも、食費や宿泊費その他諸々、
  フトコロ具合と相談しつつ計画とゆーものが固まっていくわけだ。

  もちろん予定通りなんてことは滅多にないし、
  その予定外のイベントこそが旅の醍醐味であろう。
  つーか、予定通りに消化される旅などは、
  まぁ、なんだ、面白くとも何ともないというのが本音ではある。

  備えあればなんとやら。
  運だけでどーにかなるなんてのは、まぁ、ファンタジーだね。

     ミ☆

  俗に、暇があっても金がないのが学生。
  逆に、金があっても暇がないのが社会人。

  もちろん必ずしも真ではないのだが、
  この時の私は、金も暇もある、少々特殊な状況だった。
  飽くまで個人的に、だけどね。

  そーゆーこともあり、予定はひどく大味で、
  その時の気分てヤツをかなり優先させていた。

  贅沢とも無駄ともとれるが、
  つい数ヶ月前までの、短期長期の目的を設定し、手段を選び、
  それに従って体を動かしていく手法にどれほどの価値があるのか、
  敢えてそれを無視して、逆説的に検証してみたかった。

  これが大味の理由である。
  自堕落の言い訳ととれないこともない。
  考えないことは、確かに、楽なのだ。

     ミ★

  用事がなくて早く寝てしまう場合、
  起床は、まだ冷気の残る、夜明け前となる。
  東雲時の緊張感は、まるで太陽神の神殿である。

  が、色々あったり無茶したりした次ぐ日なぞは、
  テントサイトがすっかり空になる頃まで眠り続け、
  太陽に熱せられてテントが蒸し風呂と化す頃、
  ようやく、仕方なしに、もそもそと寝袋から這い出てくる。

  サラリーマン時代の夢であった朝寝。
  しかし、、、えぃ、くそ、アポロンめ。

  てなわけで、この日の起床は8時過ぎ。
  空は、その場で見上げていられないのが勿体ないくらい、
  どこまでも蒼く、どこまでも澄みきっていた。

     ミ☆

  おはようっ!
  おはよーございます!

  元気よく挨拶されて、
  反射的にこちらも元気よく。

  この日、或いはこの時間か、テントは3張り。
  私、家族連れ、そしてこの挨拶のおじさん。

  おじさんとゆー表現はイマイチ正しくないだろう。
  聞けば定年を過ぎ、今年で63だそうだ。
  皺の具合からも、おじいさんと呼んでも間違っちゃいない。

  が、雰囲気とゆーものがある。老紳士、ってところか。
  キャンプ場ゆえ服装はごく簡単なものだが、やはり、違う。

  数年前に役員職を辞めて云々。
  古女房に頭を下げて旅に出て云々。
  婉曲な人生訓がちらほら。
  暇つぶしに自転車で、だそうだ。

  勉強になる。

  聞けば、上には上がいるとのことで、
  70過ぎのじーさまが、
  持病の神経痛を騙しつつ、
  病院でたまに点滴を打ちつつ、
  橋の下を宿としつつ、自転車で旅をしているらしい。

  感服を通り越して呆れてしまいかねないが、
  一方では、激しく感動して憧れてしまっている。

  我ながら先行き不安。

     ミ★

  もう1つのテントは家族3人。
  夏休み、だろうか。

  30半ばと思われる、
  終始がみがみと小言を繰り返していた、親父さん。
  正論なのだが、娘はどこ吹く風で受け流している。

  脳天気とか無視しているとかではなく、
  単純に言葉が伝わっていないのかと思われる。

  その娘さんは、3〜4歳ってところか。
  椅子の上で難しい顔をしている父親とは対照的に、
  ああ、確かに天使のよーなとゆー形容がふさわしい。

  母親は、天使と悪魔?の間で静かにしておられた。
  陰のよーなものをまとった印象があるが、分からず仕舞い。

  とまれ やはり、小言を聞き続けるとゆーのは、
  あまり気分の良いものではない。

  おっさん、声がまた、よく通りやがる。

  設営の時も、中で寝ぼけている時も、
  出発の準備をしている時も、
  あーだこーだと、耳障りな声が降ってくる。

  先の老紳士も良い印象は抱いていないらしい。
  叱るにしても、あれはやり過ぎだ、と。
  私としても同じ意見であった。

  あった、である。
  幸い、過去形になってくれた。

     ミ☆

  出発の準備もあらかた済んで、
  デジカメ片手にテントサイトをぶらぶらしてた帰り道。

  多分、たまたま他の2人が居なかったからなのだろう。
  その親父さんに話しかけられた。

  なにか怒られるよーなことしたかな?
  さっさと謝って逃げちゃおうかな?

  などと、とっさに。
  他愛もない。

  と、さっきまでの口調とは打って変わって、
  まぁ、小言しか聞こえてこなかったからなのだろうが、
  相対的にやさしい感じで、いや、それが普通なのか。

  すみませんねー、うるさくて。
  いつも忙しくて叱ってやれなくて、
  こーゆー機会でもないと、ねー。

  などなど。

  ふむ、多忙サラリーマンの苦悩ってところか。
  とまれ、話をできたのは運が良かった。

     ミ★

  北へ。

  今日は珍しく目的地がはっきりしている。
  旭川から北へ80kmほど。街の名は名寄。

  ひらがなで書くと「なよろ」。
  なんか、なよっ、とか、にょろ、とか、にゃろ、とか、
  みょーな語感の残る地名ではあるが、それはともかく。

  ところで、私の巡航速度は時速20kmちょいである。
  休憩を考慮して20kmで計算するのが常である。
  因みにこの数字はチャリダーの平均をかなり下回ると思われる。

  1日の移動距離は120km前後。
  たまに150とか200なんて数字も出るが、
  普通、乗っているのは5〜6時間ってところである。

  で、名寄である。
  80kmちょい。

  勢い、呑気になる。

  前日の色々もあったが、
  ここまでノンビリしていたのは、
  こーゆー理由があってこそだ。

     ミ☆

  天気予報は聞いた訳ではないけれど。

  本日の旭川周辺、空知地方の天気は、
  快晴、ただし北の風、強し。

  こいでもこいでも、進みゃーしない。

  予想の数倍の体力を消耗。
  おまけに、国道の狭いこと狭いこと。

  ほんの数キロの区間だけだと思うのだが、
  歩道どころか路側帯は数cm、
  アスファルトは耕されてぐにゃぐにゃ。

  運の悪いことに、下り道であった。
  大型車がすぐ隣を、減速なんぞしてやしないのだろう、
  とんでもないスピードでふっ飛んでいく。

  交通弱者って言葉、知っとるか?

     ミ★

  昼過ぎに名寄に到着。
  思いのほか大きい街である。

  なにはともあれ、昨夜連絡した男、Kとでもしておこう、
  手帳とテレカを引っ張り出し、ヤツの携帯を鳴らす。

  と、やけにノイズが多く、声が遠い。
  電話状況が悪いのか、はたまた別の理由なのか。

  数回のやりとりで原因が判明。
  間違い電話。
  謝って受話器を置く。

  数字をよーく見て、リトライ。
  同じ人に繋がった。
  番号を確認し、謝って、切る。

  よーく見てみる。
  これは、0ではなくて、6、か。

  チャレンジ。
  お、当り♪

     ミ☆

  用事が長引いてしまうとのこと。
  下手すりゃ日付が変わる頃まで逃げられそうにないとか。

  適当な時間に連絡することにして、
  暑苦しくおまけになぜか汗臭い電話ボックスから出る。

  ぶらつく。

  とりあえず昼飯。
  天気が良かったので、コンビニで食料を調達、
  それらしく整備された公園の一角へ。

  ぶらぶら。

  地図を広げてみる。
  お、温泉があるやんか。

  街外れ、ちょっと遠い。
  ま、よかろ、昼でも平気かな?

  温泉のあるホテルの近所をぶらつく。

  む、ジャンプ台ではないか。
  さすがは雪質日本一(自称?)である。
  って、関係あるのかどーか知らんけど。

  ぶらぶらぶら。

  本屋を発見。
  文庫本を補給。

  疲れてしまったので、駅へ。
  待合室で本を読んだり新聞を読んだり、
  考えるふりしながら寝こけてみたり。

  20時過ぎ、Kへ電話。
  遅くなると言うので、駅にいるから、と。

     ミ★

  終電は確か23時頃だったと思う。

  駅のドアは、
  それが行ってしまえば閉まるかと思われた。
  無人駅ならともかく、このままでは、まずい。

  刻一刻、人気がなくなってゆく待合室。
  しかし、Kは来ない。

  待つ。
  待つしか、あるまい。

     ミ☆

  待ちくたびれた後、再会。
  運良く終電まではまだ間があった。

  大学を卒業してから2年半。
  世間の波にそれなりに揉まれたかとは思われる。

  実直朴訥てな感じか、素浪人役でもやらせたら上手かろう。
  そんな雰囲気は相変わらずのKであった。

  Kのアパートへ到着。
  酒飲んで、語って。

  気がついたら床で転がっていた。


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