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腹痛


  水曜の夜、悪寒。

  そのまま就寝したが寒くて寝つけず、節々も痛む。
  あんなに皿洗いが辛かったのは初めてだ。

     ミ☆

  明けて木曜の朝。
  動けないことはない、という範囲での絶不調。

  遅れ気味の進捗が気になる。

  しばし天井を睨み、考える。
  天気も良かったので、
  それを気休めにネクタイに手を伸ばす。

  電車までの時間もなかったが、
  食欲はカケラもなかった。

  有楽町線、気分が悪くて本に集中できない。
  うつむいて、歯を食いしばる。
  呼吸は短く、荒い。

  定例の会議が長引いたようで、幸いオフィスの煙草濃度は低め。
  飽くまでも比較的であり、不幸中のなんとかとゆー気休め、ごまかし。

  15〜20分に1回くらいの周期で吐き気。
  吐き気といっても軽いもので、言わばジャブ。

  アッサリしたものが良かろう。
  てなつもりで買った爽健美茶も、ただ苦いだけ。

  11時半、小康状態。

  12時、昼休み。
  弁当屋やコンビニ、メシ屋の列へ急ぐ人達をよそに、
  机に突っ伏して内臓の皆さんと相談を始める。

  5分ほどで起き上がり、
  文庫本と、出社途中で仕入れた昼メシを取り出す。

  椎名誠の対談集を読みながら、
  コンビニの袋からおにぎりを引っ張り出し、ぱくつく。
  味は分かる、ふむ、おいしい。大丈夫そうだ。

  2個食べて、C・W・ニコルとの対談が終わって。

  いつもなら歯を磨きに洗面所へ向かうのだが、
  力尽きて再び机に突っ伏し、意識を失う。

  大袈裟な表現だが、眠ろうとしたわけではないので、
  まぁ、そーゆーことになるのだ。

  目が覚めたのは幸いにも昼休み中であった。
  確か12時41分だった。

  ケータイを引き寄せ、12時58分にアラームをセットし、
  マナーモードを確認、胸ポケに放り込んで、みたび突っ伏す。

     ミ☆

  14時30分、危険水域。

  余力のあるうちに帰宅せねばなるまい。
  他力本願はあとで面倒くさい。

  帰らせてください、ではなく、帰ります、と。

  演技する必要がないのは楽ではある。
  って、なんの話だそれは。閑話休題。

  銀座線に揺られ、永田町の地下を歩き、
  東武東上線直通の川越市行きの電車をパスし、
  和光市止まりの有楽町線に乗り込む。

  昼間の中途半端な時間帯と、
  大きめの駅の階段の位置を意識したドア選び。
  後者が功を奏したのかは不明だが、2駅で着席。

  野田知佑との対談のページをめくる。
  終点まで公称34分、結局、眠らなかった。

  帰宅、Tシャツとトランクスとゆー軽装で布団に潜り、
  ふと思い出して正露丸を3粒飲み込み、丸くなる。

     ミ★

  19時過ぎ、チャイムの音で目が覚める。
  ボソボソと私の名前を呼ぶ声が伝わってくる。
  NHKの集金であることは間違いない。

  払わないって訳じゃないから、今日のところは勘弁してくれい。
  つーか、いま、筋肉から内臓から脳ミソから、
  体中満遍なく痛くて痛くて痛くて動けないんじゃから、のぅ。

  などと天井に向かって訴え、退散を願う。
  あちらも勝手が分かっているらしく、チャイム2回で足音。

  寝直す。

     ミ☆

  20時頃だったか。

  目を覚ますと胃袋が ぐーぐー 鳴いていたので、
  筋肉と関節の軋みに悲鳴をあげながら台所へ。

  今朝タイマーで炊かれてからホッタラカシの白米。
  おかゆ風にして、その他諸々と共に晩飯。
  普通に美味しく食べられた。

  布団に戻って椎名誠の続き。

  と、しばらくして。

  胃袋、であろう、たぶん。

  通常の腹痛を遥かにしのぐ、
  小人さんが胃の中でプロレスでもやってるんじゃないのか?
  てな具合の痛み。

  ん?、むむ?、、、う、、、(絶句)

  腹部をおさえて布団に倒れ込み、
  息を止めたり体を捻ったり、
  どーにかして痛みをやわらげようと、
  どーにかして痛みをそらそうと、悶絶。

  んがー。

  治まっては再発、治まっては再発。

  うぐぅ。

  何度繰り返したかは定かではないが、
  意を決して、やはり筋肉の痛みにも悶えつつ、トイレへ。

  リバース。

  手を使わずに1回。
  手を使って、つまり口の中に突っ込んで、1回。

  荒い息が収まったあたりで、
  もう一度手を使って1回。

  さらに駄目押しで手を使って、合計4回。

  口をすすいで布団に戻る。

     ミ★

  戻しが足りなかったらしい。

  つかの間の平和?もアッサリ終わり、
  再び腹部を中心とした闘争が始まる。

  数ターンの後、小康状態を利用してトイレへ。

  最初から手を使って げぶべべぼば〜、と行くと、
  息を吸う間もなく第2波、第3波、第4波。

  激闘の末、なんて表現が似つかわしい。

  直立し、体を左右に振って胃袋の中身を集め、
  トドメとばかりにもう1度手を突っ込む。

  最後はほとんど胃液だけだった。

     ミ☆

  散発的で、少しずつ間隔が広がり、マシになっていく痛み。

  眠りに落ちて、目が覚めて、
  苦痛に耐え、耐えるうちに眠りに落ちて。

     ミ★

  金曜の朝。
  微かに期待してはいたのだが。

  痛む節々、のたうつ内臓、軋む脳ミソ、頭痛、それと発熱。

  動けないことはなかった、と思う。
  例えばメロスのように、どーしてもという理由があるのなら、
  ネクタイを締めて会社へ行けないことはなかった、と思う。

  が、行くべきではない、というのは、
  誰の目にも明らかだったろう。真理といって良い。

  土日で清算できるような無茶ではなかった。

  上司Aの携帯、出ない。
  上司Bの携帯、出ない。
  同僚Cの携帯、出ない。

  他のルートは冗長過ぎる。

  再び上司Aの携帯、やはり出ない。
  留守録モードになったので、
  すいません、休みます、でオンフック。

  A氏の行動パターンは分かっている。
  必要なら電話を掛け直してくれる、……多分。

  布団の中で丸くなり、戦闘再開。

     ミ☆

  浅い眠りと変な夢、そして苦痛。

  気がつくと陽は落ちていた。
  吐いたぶんを除けば、昨日の昼に食べたきりなのに、
  不思議と食欲はわいてこない。

  空っぽの胃袋は ぐるぐる 鳴いているが、
  脳ミソの方が無視しているらしい。

  腹痛の間隔も随分長くなった。
  モノは試し、と、少し胃袋へ流し込んでみる。

  が、2口ほどで中止。
  やはり駄目らしい。

  寝る。

     ミ★

  土曜の朝。
  かなり散発的ではあるが、まだ治まってくれない。

  医者、だろうか。

  昨日に、平日である金曜に行動するのが利口なのだろうが、
  いかんせん身体が動かなくてはどーにもならない。
  救急車を呼ぶほどの大事とまでは思えなかった。

  ほんで、よーくよく考えてみたら、徒歩1分の距離に胃腸科があった。
  電話番号を調べるのも面倒だったので、
  だらだらと着替え、だらだらと歩いてみる。

  土曜の診療時間、午前中。
  時計の数字は11時32分。

  待合室を覗くと、ぱっと見で1ダース。
  無条件でUターン。

  惰性で近所を徘徊してみる。

  節々の痛みは相変わらずだが、
  歩くくらいなら支障はない。

  胃袋は空っぽ、しかし身体は重い。

  遠目には満開のソメイヨシノ、
  空はこんなにも蒼いというのに。

     ミ☆

  収穫もなくアパートに戻り、
  窓を少し開けて空気の流れをつくり、汗で湿った布団へ。

  発作から始まるいつものパターンが繰り返される。
  開き直ったのは18時頃だったか。

  痛みもかなり弱まった。
  なによりも、食欲を感じている。

  パンを、ゆっくりじっくり噛み締めて、飲み込む。
  枕元に置きっぱなしだった午後の紅茶を1口、2口。
  不味いわけがない。

  食べることなしに生きていることを実感できるのだろうか。

  ふと、思った。

     ミ★

  これを書いているのが、その土曜の夜。
  少し前に日付が変わったので、正しくは日曜の夜。

  敵の勢力は消滅寸前と思われ、回数も痛みも諸行無常。
  明日の朝には消え失せているだろう。

  強烈な逆襲でもない限り、
  病名は不明のままに忘れ去られることになるだろう。
  興味はあるが、まぁ……いいや。

  ふむ、いい時間だ、指も疲れた、寝てしまおう。
  さぁて、このまま無事に終わってくれれば良いが。

  因みに読みかけの本は椎名誠の対談集「ホネのような話」。
  初版は1989年8月。先日、小川町の古本屋で購入。

  CMをネタにした東海林さだおとの対談があるのだが、
  1987年頃のなんてぜーんぜん覚えてないぞ〜。

  それはそれとしても、ぶち壊される自然をテーマにした対談では、
  断続的な吐き気さえ忘れてしまうほどにアタマにきた。
  面白い発見だが、ま、余録にしては重いので、ここではここまで。


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