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旭川 → 旭川


  ■ 7月17日(金) つづき

  後で判明したことだが、原因は次の通り。

  後輪、スポークはスプロケットの内側にある。
  変速機の調整をミスったりすると、
  そこにチェーンが落ちてスポークを傷つける。

  が、さすがにそう簡単にはぶっ壊れるものでもなく、
  そーゆーキッカケがあり、長い期間、
  最初に買った時からホイールはそのままなので、
  かれこれ7年、それなりの距離を走ったので、
  金属疲労だろうか、とにかく破綻した訳だ。

  金融機関が破綻じゃないぞ。閑話休題。

  本来はそれを防止するためのカバーが付いているのだが、
  邪魔だ!、なんつって外してしまったのは、
  はて、ずいぶん前のことだと記憶している。

  バスの振動がトドメだったのだろう。

  ま、それはともかく、不幸中の幸いだろうか。
  こーゆー自転車をキチンと扱う店は少ない。
  関東でも雑誌などで探さなければならない。

  しかも北海道である。

  人口、そして需要を考えれば、
  札幌、旭川、函館レベルの大都市でなければ、
  こーゆー店の存在は期待できない。

  が、しかし。

  素敵なことに、旭川の、
  しかも情報が集中する駅のまん前で事件は起きた。

  運が良いのやら悪いのやら。

     ミ★

  近場にいたチャリダーを何組か捕まえて情報収集。
  残念ながら有益な情報はなし。

  電話帳と相談。

  と、それっぽい店が数件。
  さすが旭川、ありがたい。

  さて、どこへ行くか、である。

     ミ☆

  ところで。

  前回なので大学3年の夏である。
  サークルの合宿で北海道へ来た。

  現地集合だったので、
  友人と2人で集合場所まで数日かけて走ったのだが、
  その道半ばでそいつのスポークが折れてしまった。

  しかも2本。

  場所は、何もないことで有名になってしまった襟裳岬付近。
  何もない訳ではなかったが、自転車屋さんはなかったので、
  なんとか騙し騙し走り続けた。

  で、某町の某自転車屋にて、
  最近のパーツには疎いおっちゃんにより、
  危うくホイールをバラバラにされかけたとゆー、
  非常に苦い思い出がある。

  結局、幾つかの町、幾つかのお店を回り、
  完治したのは釧路においてであった。

  その間の走行距離実に100km以上。
  ゆめゆめ、油断はできない……。

     ミ★

  店の名はクランカー。

  クランカーとはMTBの前身となった乗り物の名前。
  簡単に言うと改造したビーチクルーザー。
  それでオフロードを走っていたのが、
  いつの間にやら進化し、MTBと呼ばれるようになった。

  一つの賭けであった。

  他にも期待できそうな店もあったのだが、
  なぁんとなく、である、勘である。

  勘。まぁ、非科学的ではある。

  が、経験から言えば、ある特別な状態のそれは、
  不思議と当たることが多く、大いに頼ることができる。

  それはズバリ、旅先での勘である。

  大雑把にはテント生活を始めて数日してから、
  太陽を時計代わりにすることを受け入れる頃からだろうか。
  とにかく、妙に鋭くなる。

  旅先ではそれなりに意識して判断材料にしている。
  決して自己暗示や記憶の操作ではない……と思う。

  とまれ とにかく、それに従ってみた。

     ミ☆

  ホイールに負担をかけたくなかったので、
  てくてく歩くことにした。

  北海道の都市部の住所は簡単明瞭である。
  どこぞの地区の、北からなんぼ、東へなんぼてな感じの、
  理系にはお馴染みの2次元の直行座標系なのである。

  大抵は座標を記した看板が信号機にくっついているので、
  そうそう現在位置を見失うことはない。

  が、豊岡はちょっと遠かった。
  5〜6kmはあったろうか。

  途中、ちょっと不安になって道を尋ねたのだが、
  親切な老婦人は、結構距離がありますよ〜、とのことで、
  ちと考え直して途中からは騙し騙し、自転車で走ることにした。

     ミ★

  当たりであった。
  しかも大当たり、先に書くが、皮肉ではない。

  寡黙な仕事師風のマスターの診断では、
  原因は先に書いたとおりで、寿命だろうね、の一言。

  とりあえず、と、スポークの張り替えを、と、ガサゴソ。
  数分後、ありゃぁ、と、どこか間の抜けた声。

  ないよ。
  ありゃま。

  スポークにも色々な種類がある。
  材質、太さ、長さ、空気抵抗の少ないもの。

  適合するものが見あたらいらしい。

  しばし考えるマスター。
  そーだねー、と、半ば呟くように。

  ホイールごと取り替えないかい?
  は?

  聞くと、新品同様のホイールを前後1セット、
  常連客からの委託販売という形で預かっているという。

  それが、また、なんという奇遇だろうか。

  自転車のパーツというのは、
  近年は特にモデルチェンジ激しく、
  規格も数年で変わってしまう。
  小売での在庫も推して知るべしである。

  大学4年の1年、社会人の1年。
  ざっと3年、こちらの世界には縁が無かった。

  型遅れ。

  互換性のないパーツが壊れると、
  ちぃとばかし厄介なことになる。

  のだ、が。

  そのホイール、ちょうど時代がピッタリなのである。
  組まれた時期も私のそれとほぼ同時期、
  しかもパーツのグレードは1つ上、
  かなり高価な部品で構成されていた。

  こーゆー場合は、型遅れは貧乏人の味方である。
  パーツ代、工賃など、福沢さんが団体で消えそうな、
  そーゆー代物である、いや、あった。

  が。

  6000円でどう?

  幸い、財布の中は雉が2羽。
  無難な選択といえた。

     ミ☆

  ちょっと遠いかもしれないけど。

  そーゆー前置き付きで教えてくれたのは、
  春光台公園グリーンスポーツ施設キャンプ場。
  たまたまクランカーで居合わせた客からの情報である。

  思わぬところで大幅な軽量化を果たした我が愛車。
  ギア比は微妙に変わってしまったが、ま、よかろう。

  様子を見つつ、その性能に舌をまきつつニヤケつつ、
  たまに地図を眺めながらキャンプ場へ向かう。
  もうすぐ日没である。

  管理小屋で手続きを済ませる。

  手渡されたフォームに必要事項を書込むと、
  出てきたのは近所の観光情報、
  それに銭湯とコインランドリーの地図。

  前者はともかく、後者は非常にありがたかった。
  近くにそーゆー施設が有るというのもうれしい。

  サクッとテントを立て、
  陽が沈みきらないうちに軽装で風呂へ。

     ミ★

  ごく普通の銭湯。

  番台のおっちゃんと喋る。
  どっから来たん?
  どっちへ行くん?
  基本である。

  風呂上がりにコーヒー牛乳。
  90円。

     ミ☆

  相対的にかもしれないが、
  ここ数日は割と平々凡々だったので、
  今日のこのイベントの多さゆえだろうか、
  さっさと寝袋に収まる気が起きない。

  洗濯をすることにする。

  幸い、先に貰った資料がある。
  荷物を引っ掻き回し、汚れ物を集める。

  既に真っ暗なので、ライトを引っ張り出し、
  サドルの下に自前で点滅する赤いライト、
  リフレクターなどと言うのだが、
  それをくっつけて再びキャンプ場を離れる。

  洗濯物を放り込み、
  近くの自販機で買った紅茶を啜り、
  ポケットから文庫本を引っ張り出す。

     ミ★

  なにげに顔を上げると、
  目に飛び込んできたのは「旭川ラーメン」。

  そーいえば晩メシがまだであった。
  そーいえば久しくラーメンを食べていなかった。
  そーいえばここはラーメンの街なのであった。

  ネオンに照らされた営業時間と、
  乾燥機の残り時間を見比べてみる。

  OK、ノープロブレム。

  チャーシューメン。
  値段は、忘れた。

  が、味は覚えている。
  美味しかった、すごく。

     ミ☆

  コンビニ経由でキャンプ場へ戻る。
  が、まだ用事はあった。

  乾燥機に放り込めない衣類をテント周辺にぶら下げ、
  今度は手帳と財布だけをもって、みたび出発。
  知人に電話をしておかねばならない。

  キャンプ場の入り口から右方面は、
  この数時間の間に何度か通った激坂。
  左方向は、未知の世界。

  住宅地らしい灯が見えるので、
  探検がてらに公衆電話探しの旅に出る。

  と、案外アッサリ、遠目にもそれと分かる、
  お馴染みの緑色の光を発見。

  が、先客がいた。

  しかもその周囲にタムロする、
  いかにも脳ミソの軽そうな、中学生くらいだろうか、
  ワカゾーが合計4名。

  難を避けてすり抜ける。
  どこにでも居るんだね、と、ひとり闇の中で苦笑。

  そう遠からぬ場所で2台目の公衆電話を確保。
  知人に連絡をとり、さっさと来た道を戻る。
  キャンパーはもうとっくに寝る時間なのだ。

  長い1日であった。


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