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うさぎ


  出勤途中、コンビニから出ると、
  正面に東京都のゴミ収集車がいた。

  妙なものが目についた。

  車の中ほど、
  ゴミを積めこむ装置に取りつけられたハシゴ。
  その上段付近で曇天を見つめる、うさぎ。

  過程は知る由もないが、
  排気ガスだろうか、薄汚れた、ありふれたデザインの、
  昔は白かったであろう、うさぎのぬいぐるみ。

  なんとなく括り付けてみたのか。
  それとももっと深いメッセージを託しているのか。
  職員の意図はわからない。

  が、朝から変に悲しくなったのは確かだ。

     ミ☆

  いま、部屋の隅にPCが1台たたずんでいる。
  PCよりパソコンと言ったほうが適当だろう、
  エプソン製の98互換機である。

  購入は大学3年の頃で、その後の約4年間、
  私はこいつのキーボードを叩き続けた。

  テキストを扱うだけなら十分なので、と、
  いや、それ以上に、その強い愛着ゆえに、
  どーしても処分できずに数年経ってしまった。

  DOSのアプリを使う見込みは消え去った。
  キーボードの潤滑油も飛んでしまい、
  当時惚れ込んだそのキータッチは、
  もう思い出の領域で枯れている。

  コンピュータの進化のスピードなんて、
  本職だし、よーく知っている。痛いほどに。
  そして彼が、既に過去の存在であることも。

  部屋も手狭になった。
  不要なものは捨てなければ。

  ため息。

  所詮は道具ではある……が。
  写真くらいは撮っておこうかな。

     ミ★

  嫌なことがあった。
  なにがどう嫌なのか掴みきれずにいた。
  アルコールを啜りながら悩んでいた。

  音楽が流れてきた。
  気がついたら聴きこんでいた。
  自然に、音楽に包まれ、安らいでいた。
  思考がぼやけた。ひどく心地よかった。

  しかし。
  性分なのだろう。
  頭の中に警告音が響いた。

  逃げるな、と。

  目の前にぶらさがった疑問。
  ほったらかしには出来ない。

  手掛かりはあまりにも少ないが、
  諦めて立ち止まるのは、
  逃避でごまかすのは、気に入らない。

  ぬるま湯 ―― 。

  しかし、よい調べだったよ。


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