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お奉行さま


  会社の懇親会、要は飲み会。

  遠くから、久しぶりに顔を合わせた先輩の声。
  おーい、9月10日は大丈夫か?

  なんのことやら分からない。
  って、なんですか〜?

  笑い声。
  ボケをかましたと思われたらしい。

     # 天然じゃないよ

  代わりに隣の席からツッコミが入る。
  10日って○○の結婚式だぞ〜。

  ○○とは別の先輩の名前。
  私が顔と名前を知る、数少ない社員の1人。

  ちょっと待て〜。

  慌てて詳しい話を聞く。
  連絡係のマヌケ具合が発覚。

  嫌々でも出席して正解。
  危うく義理を欠くところであった。

     ミ☆

  さて。

  最近めっきり小食なので、
  食べ放題飲み放題なんて言われても、
  言語道断、うれしくともなんともない。

  飲屋で割り勘負けするのは構わない。
  食べなきゃ損ってのとは少し違うから。

  閑話休題。

  開始30分程で胃袋様は満足してしまったので、
  はて、残りの1時間半をどーやって過ごそうか、
  などと呑気にぼーっとしていると。

  お、来たな。

  社長の声。
  意図的に遠くの席を選んだのだが、
  渋めのバリトンがタイミング良く。

  見ると、年配の、50くらいか、
  それなりに腹の膨らんだ、おっさん。
  営業さんらしい。

  で、何がどー作用したのか。
  私の席のほぼ対面、若干左にずれた位置に着席。

  鍋はなぜか私の正面にあった。

     ミ★

  初対面なのでそれなりの挨拶。
  社長は定年間際、その2つ下。

  見れば分かる、
  道端で管を巻いている輩の類いではない。
  その風格、明らかに長の付く役職が似合う。

  酒の席とはいえ、
  こちらも襟を正さざるを得ない。

  食べてるか?
  はい、それなりに!

  笑いながら嫌味なく言うのがポイント。
  既に浸透しているアルコールを最大限に利用。

  ほうほう、ほれ、そこ、煮えてるぞ。
  へーい。

  微かに混じった生返事を悟られたかと思ったが、
  おっさん、にこやかに菜ばしをそこへ伸ばす。

  ほれ、皿?
  へ?、あ、はい、頂きます!

  食べる。食べざるを得まい。
  ハクサイと牛肉、それにシラタキ。

  いいね〜、若い人は食べなくっちゃね〜。
  は〜。

  片付ける。
  夏バテ気味の胃袋の様子が気になる。

  おお、早いね〜、うんうん、ほい、次。
  次??
  おう、ほら、早うせい。
  む〜。

  こうして、わんこ鍋のサイクルが確立したのであった。

     # ちゃんこ鍋とはまた違う
       ねこまんまや犬鍋の類いでもなし

     ミ☆

  いつの間にやら鍋の正面にいるおっさん。
  完全に鍋奉行モードである。

  話しているうちに体育会系であることが判明。
  しかも営業。一人静かに納得する。

  テーブルの構成員は4人。

  1人は若そうに見える初対面の女性。
  四捨五入して20かと思ったら、意外にも年上、既婚者。

  もう1人は韓国人技術者C氏。歳は確か40。
  したたかなモノである、うまく逃げやがった。
  隣のヤツと、営業さんの疎い、
  ディープな技術系の話題で盛り上がっている。

  てなわけで、孤立無援。
  イケニエとも言う。

  ぼんやりとカレンダーを思い出す。
  明日は……なにもないや。良かった。

  壁の時計を見る。
  残りは……1時間。

  む〜。

     ミ★

  有楽町線は森林公園行き。
  座ったら最後、タクシーか始発待ちか。

  てなわけで、座らずに揺られること数十分。
  同じ方向の人とたまにボソボソと喋りつつ。

  なんとかアパートに辿りつき、
  とりあえずは、と、メールチェック。

  数分後、PCの電源を落とし、力なく椅子からずり落ちる。
  胃袋から落ちたような気分、重い。

  手を伸ばしてみたが、座布団は見つからなかった。
  ひとり腕枕で丸まる。

  右肩を下に。

  気休めかもしれないが、
  胃袋の負担は和らぐはずだ。

  BGMは谷村有美だった。
  電気は点けっぱなしだった。
  暑かったのでエアコンは使っていなかった。
  代わりに窓を開けていた。

  ……。

  有楽町線の始発の音で目が覚めた。
  鼻水が出る。ついでに喉も痛い。

  風邪を引いたらしい。

  ため息。


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