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足跡


  壁の時計が止まっていた。

  面倒くさがろうとも思ったが、
  落ち着かないので電池を買ってきた。

  壁際に椅子を運び、手を伸ばす。
  直径30cmほどの正8角形。
  うっすらと積もった埃。

  2本の針に気を遣いながら表面をなでる。
  陽に焼けて黄ばんだ白、やさしい、日向の色。

  振り返ると、壁には時計の形。
  時の流れに嫌われたかのような、虚ろな白。

  ひっくり返して電池を外す。
  と、誰の字だろうか、交換した日付。

  引き算してみると約3年と2ヶ月前。
  まだ学生服を着ていた頃か。

  電池のデザインもひと世代かふた世代前のもの。
  古くさいが、どこか人懐っこく、どこか哀しい。

  電池に今日の日付を書き入れる。
  自分の名前の後ろに、晴れ時々くもり、とも。

  時計を元の位置に戻し、仕事に戻った。


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