ガラスのあっち側
JR新橋駅を降りてから勤務先まで約10分。
ごちゃついた街なので、その経路は無数といっていい。
なんとなく右に曲がるのをこらえて真っ直ぐ……。
と、こんなところにこんな物が、
なんて具合の新しい発見は珍しくない。
あからさまに怪しい店、
20年くらい時間が止まっているような店、
思わずのけぞるような価格設定の店、などなど。
ミ★
花粉舞い散るある春の日の出来事であった。
いつもより1時間ほどずれて、
通ったことの有るような無いような道をてくてくと。
目が覚めてからしばらくぼーっとしていたせいだ。
カーテンの隙間が浮かび上がらせた微粒子の流れ。
たぶん、何も考えていなかったに違いない。
結局1時間遅れの電車、100%遅刻。
ここまで遅れると逆に開き直る。
というのはともかく。
昼の店とサラリーマンとはすれ違いである。
朝は開店前、夕方は閉店後。昼休みは、短い。
1時間ずれただけなのに、
そこには妙に見慣れぬ景色が展開している。
デジャ・ビュの如きもの。
脳ミソの混乱は、しかし心地よく、
これもまた良い暇つぶしになる。
いや、遅刻はまずいが。
ミ☆
その小路。
裏通りといっても語弊が無いような、
暗め狭めの、静やかな小路。
いつもの時間ならシャッターが降りているのであろうショーウィンドウには、
こんな私でも耳にしたことのある有名ブランドの小物が並んでいた。
ヴィトン、フェンディ、プラダ、などなど。
気持ち歩速を緩め、おもむろに視線を這わせてみる。
値札には特価の文字。
それは、
その値引き以上に商品を安っぽく見せている。
レイアウト、値札の文字、日に焼けた飾り布、
欲しがるヤツ、買い与えるヤツ、その他諸々。
チープという単語がひとしきり脳裏を走る……。
ミ★
とはいえ、高価い。
アホみたいに、高価い。
腹立たしいくらいに高価い。
流通過程を聞いたら、
きっともっと腹が立つに違いないが、しかし、
とりあえず実害は無いので気にしない。
……なんて考えたのは、その後歩きながら。
ショーウィンドウは10mくらいしかない。
不思議なものを見付けた。
ミ☆
素材はイマイチ判りかねたが、遠目には、
衝撃吸収性の良さそうな、密度の高めなスポンジ状のそれ。
そういや似たような手袋を持っている。
黒い、なんの変哲もないデザイン。
長さ25cm程の、葉巻形宇宙船めいた。
良くは見えなかったが、プラダの、
お馴染みの黒と銀のマークは付いているのだろうか?
スリッパ。
プラダのスリッパ。
福沢さん2枚じゃ足りないんだそうだ……。
ま、春だしね。