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壁の血


  久しぶりに壁を殴った。

  前にやったのは、はて、
  四谷の地下でくすぶっていた頃だから、
  ざっと3年前ってところか。

  その頃は毎日の様にゲシゲシやっていたのだが、
  ある時ふと、壊れたらどうしよう?
  などと思って、やめた。

  自分のものじゃないしね。

     ミ★

  3年ぶりではあったが、
  殴り方は体が覚えていた。

  力を入れて殴る前に、
  ノックをする位の力で軽く叩くのである。

  材質を調べるためだ。

  堅牢そうに見えても、
  実はそれっぽい壁紙を貼っただけの合板なんてのも珍しくない。

  第7感に目覚めている訳でもないが、
  ジャストミートして凹ませてしまう可能性も無くはない。
  中空の場合は音が盛大に響いてしまうので困る。

  予備調査を行い、
  うむ、これはコンクリートの塊に違いない、
  という確信を得たあと、力をこめてぶん殴るのだ。

     ミ☆

  別に変な趣味があるわけではない。
  特別な意味付けがあるとか宗教儀式であるとか、
  そんな面倒くさいものではない。

  怒りを鎮める手段の一つとして、だ。

  つまり、3年以上の封印を破らざるを得ないほど、
  無茶苦茶腹が立っていたのだ。

     ミ★

  原因は非常に簡単、タバコだ。

  あからさまに嫌そうな顔をし、
  ワザとではなく咳を連発し、
  煙を避けるために扇子なり下敷きを動かし続ける。

  プログラムを書くにせよ仕様書を書くにせよ、
  片手が使えなきゃ効率は9割引くらいになる。

  で、悪臭の主を睨んでみると、
  暇そうにあさっての方向を眺めているのばかり。

  仕事が無いのなら遊んでいたって構いやしないが、
  他人の邪魔をするなってんだ。

  喫煙者という人種は、
  何故ゆえああも無神経で鈍感で独り善がりで自分勝手なのだろうか?

     ミ☆

  客先に常駐しているので、
  オフィスを禁煙にしろなどと文句を言える様な立場にはない。

  それに、ざーっと眺めてみたところ、
  全体の7割かそれ以上が煙を吐いている。

  多数決?
  こーゆーのを数の暴力というのだ。

     ミ★

  自社に戻っても事態はたいして変わらない。
  なんぼかマシではあるが、全面禁煙は夢のまた夢。
  腹立たしいことこの上ない。

  よく、タバコを吸わなければ仕事が出来ない、という、
  即座に蹴り殺してやろうかと思う様な言い訳を耳にする。

  では、タバコを吸われると仕事にならない人間は、
  一体どうすれば良いのだろうか?

  被害者・加害者の関係はあまりにも明白である。
  譲歩すべきはどちら側であるのか?

  考えるまでもないだろう。

     ミ☆

  どうもタバコの話になると感情的になってよろしくない。
  のだ、が、あの悪臭はどーにかならないものだろうか?

  臭いだけでも我慢し難いというのに、
  それが絵に描いたような「 百害あって一利のみ 」であるゆえに、
  この熱くなってしまった血は、なかなか治まってくれそうにない。

  副流煙その他による物理的な被害も気に入らないが、
  周囲に害を与えていることを認識できない、
  あるいはそれ理解しながらも、
  己の欲求を優先するような輩の近くにいること自体、
  この上なく腹立たしい。

  「 アメリカでは〜 」などの様な表現は好きではないが、
  もう少しタバコの害というものを気にしてくれないものか。

     ミ★

  いいじゃん、タバコの税金10倍くらいにして、さ。

  なんて、ね。

  自分が被害者側でなければ、
  被害者側になる可能性が無いか若しくは非常に低いのならば、
  なんだって好きなことを言える、冷たくなれる。

  言葉を入れ換えればタバコのそれと同じに聞こえるかもしれないが、
  それらを同じ次元で扱おうとするのは手抜きというものだ。

  階段とは1段ずつ登るべきものなのだ。

  仮にタバコ1本が1000円くらいになれば、
  さすがに喫煙人口は減少するに違いない。

  しかしそれは外圧の結果に過ぎず、
  強いて言えば「 ガキのしつけ 」である。

  自律、自ら行動すること。
  この国はガキが多すぎる。

  ま、壁を殴るようなのも同類なのだろうが。


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