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羅臼 → 斜里 ( しゃり )


  ■ 7月14日 (火)

  爆睡している間にまた一雨あったようで、
  世界は、朝露では説明のつかないくらいの湿り具合。

  曇天、空は明るめ。

  気温は低く、
  朝晩冷え込むようになったね、もう秋だね、
  ってくらいの、涼しさ、……というより、寒さ。

  管理小屋脇の温度計は12度。

     ミ★

  カムイワッカの滝、知床五湖、その他諸々、
  ウトロには景勝が多い。
  知床岬見物の観光船なんてのもある。

  が、連日の雨を考慮して、パス。
  それに、1人では熊も恐い。

     # 熊出没で立入禁止なんて場所もあります

  まぁ、ツレなんぞは探せばよいのだが……。
  根拠の乏しい野生の勘に従い、西へ。

     ミ☆

  海岸沿いの国道をひた走る。

  きれいに整備された道路は非常にありがたいが、
  それが森や海に近ければ近いほど、
  この道のためにどれ程の物が失われたのだろうか、
  などと、じっと考え込んでしまう。

  すると、ペダルを回す足も重くなり、
  適当な場所に自転車を止め、
  しばらくぼーっとしてみたりもする。

  こんな時は、つくづく一人旅で良かったと思う。

  が、うやむやで終わってしまうのも毎度のこと。
  誰かと一緒ならそれなりの答が出るのかもしれない。

     # 出ないかもしれない

     ミ★

  斜里 ( しゃり ) の手前あたりで空が晴れ上がる。
  気温も良い感じに上がり、つられてペダルの回転数も上がる。

  釧網本線斜里駅。
  なんとなしにトイレに入る。個室。

  不思議と、旅に出るとトイレの回数が激減する。
  運動し続けるので小便が減るのは判るが、
  消化効率が上がるのか、大便のほうは3日に1回程度になる。

  内臓は至って元気なように思われるから、
  便秘という訳でもないのだろう。

  ま、面倒が無いのでよしとする。

     ミ☆

  で、その個室である。

  中に入ると便器は和式、水洗であるのだが、
  妙なものが視界に飛び込んで来た。

  よく玄関で見かける、チャイムのボタンである。

  ベースはクリーム色、指で押す部分はブラウン、
  緩やかに凹んだ部分には音符が踊っている。

  むむ?

  直前に老人福祉のことを考えていたのが悪かった。
  最初にナースコールの類いを連想してしまったのだ。
  気分が悪くなったらボタンを押し、
  この場合は駅員なりが駆けつけて云々という、あれ。

  その他にも材料はある。

  その昔よく行っていた郡山の献血ルームのトイレには、
  ずばりナースコールのボタンがあった。今でもあるはずだ。

  献血ルームだけに、
  本物の看護婦さんが駆けつけてくれる。

     # 試したことはありませんが(汗)

  また、トイレの中で倒れるというのは別に珍しいものではない。
  立ち上がる際の急激な血圧変化が原因である。

  実際、父方の祖父はトイレ……というか便所、いや、厠かな、
  そこで倒れ、ほどなくして他界したとのこと。

     # 語感の問題

     ミ★

  構造をもう一度確認する。

  便器の形状から、水洗であることは間違いない。
  が、それらしいスイッチが見当たらない。

  しばし便意を抑え、シミュレート。

  用を済ませたとして、
  それを流せないというのは非常に間抜けなことである。
  つーか、人間としてかなり恥ずかしい状態だと言えるだろう。

  ナースコール……この場合は駅員コールになるのだろうか、
  もしそうだった場合は、それはそれで恥ずかしいものがある。

  しかも、中で人が倒れているかもしれないという状況では、
  救助側としては悠長にノックなどしないかも知れないし、
  強引にドアをこじ開けるか、
  それ相応の手段を行使する可能性も否定しきれない。

  そして、鉛のように重い空気がトイレ周辺に満ちることは、
  ふむ、想像にかたくない。

     ミ☆

  ふと、注意書きの類いが見当たらないことに気付く。

  仮にこの音符がヘルプボタンだとすると、
  その旨を記した貼り紙なりプレートなりがあるのが普通である。

  それに、イタズラで押すヤツもいるだろうし、
  それほど考えもせずにひょいと押してしまうヤツもいるだろう。

  で、その都度駅員が走ってくるのは大変だろうから、
  そう易々と押すんじゃないよ、
  という旨を記した貼り紙があっても不思議ではない。

  この線から考えると、
  ヘルプボタン説の支持率はぐっと小さくなる。

     ミ★

  貼り紙が剥がされていたら?
  などという疑問が脳ミソの右のほうを突っつく。

  ボタンの周辺を見てみると、
  うぅむ、なにやら画鋲を差したような跡がある。

  振り出しに戻る。

     ミ☆

  なんて、呑気に考えつつも、
  無難な解決策は脳ミソの片隅にスタックされていた。

  用を足す前に押してみれば良いのである。

  水が流れればそれでよし、
  駅員が走って来たら笑って誤魔化す。
  看護婦さんだったら雑談モードにでも突入すりゃいいや。

  ぴんぽ〜ん☆

  なんて鳴ったらどうしようとも思いつつ、
  軽く表面が劣化したボタンを押し込む。

  何事もなかったかのように、水の音がした。

     ミ★

  セイコーマートでとり天丼を買う。
  フェリーと知床で会った湯治の兄やんのお薦めメニューである。

  内容は至ってシンプルである。
  白米の上に鳥の唐揚げをのせて海苔をまぶし、
  それっぽいタレがかけてある。

  美味。

     ミ☆

  道端でしばらくぼけーっとして、
  ザックからおもむろにサイコロを引っ張り出す。

  海岸線に沿って網走方面か、
  内陸の弟子屈 ( てしかが ) 方面か迷っていたのだ。

  国道脇の歩道に響く乾いた音。

  4面ダイスは南へ行けと言った。
  では、摩周湖か。

  天気はどうだろうか?

つづく     


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