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知床 → 羅臼 ( らうす )


  ■ 7月13日 (月)

  温泉効果か単にたるんだのか、
  目が覚めたの7時過ぎであった。

  こーゆー生活をしているとどんどん早起きになり、
  1週間もすれば東雲時に夢から覚めるようになる。

  理由は簡単、さっさと寝ちまうから。

  ま、日の出に反応しやすいとか野生の血が目を覚ますとか、
  そーゆーのもあるのかもしれない。

  天候、晴れ。
  陽が出ている。

  ビニール袋を広げて荷物置き場を確保し、
  テントをひっくり返して底を乾かす。

  気温もボチボチ上がって来て、
  テント、フライシート、荷物から、
  ゆっくりと水分が去って行く。

     ミ★

  ぼーっとしている理由はない。
  工具&オイルを引っ張り出してメンテナンス。

  レース向きの、やけに単価の高いブレーキパッドは、
  連日の雨を経て随分とすり減ってしまっている。

  予備を持ってくれば良かった。
  補給は、旭川か札幌か、運がよければ北見あたりか。

  タイヤの減り具合も気になる。
  思ったよりコンパウンドが柔らかいらしい。

  交換してからの走行距離と、
  これから走るであろう距離とを考えると、
  ちょっと楽観はできそうにない。

     ミ☆

  それなりに乾いた荷物をパッキング。

  と、思わぬ所に落とし穴、ウィスキーの瓶。

  500mlくらいサイズなのだが、
  まだ3割ほど残っている。

  これから荷物を担いで峠を上ろうというのだ。
  いくらなんでも飲み干す訳にはいかない。

  こーゆーときに収納容量に余裕がないと困るのだが、
  ま、それは致し方ない。

  と、インチキ関西人Cが寄って来たので、
  「 酒、飲む? 」 「 おう! 」で一件落着。

  しばし雑談の後、
  見知った顔に手を振って山登り開始。

     ミ★

  前日と同じような場所で羅臼岳を眺め、
  前日と同じようなタイミングで霧に包まれる。

  仕方がないので、
  前日と同じような勢いで峠の駐車場を目指す。

  と、
  前日と同じような気温と風の強さ、つまり、
  前日と同じように、無茶苦茶寒い。

  ツーリングマップルには、
  「 羅臼岳が目前に、遠くに国後島望む 」
  とあるが、霧、視界はせいぜい50m。

  諦めてさっさと下ることにする。

  標高は700mちょいなので、気温の逓減率ってやつで、
  下界(?)より7度くらい気温が低いのだ。

     ミ☆

  駐車場から離れて国道に出ると、雨。
  けっこう強い。これは……ヤバい。

  勢いに任せて一気に駆け下ることにする。

  たかだか十数km、カーブの少ないダウンヒルだから、
  まぁ、40km/hを下ることはあるまい。
  20分も我慢すればどうにかなるだろう……。

  甘かった。

  1kmも走らないうちに指がまともに動かなくなる。
  無論、寒さのためだ。

  ただでさえ低い気温、吹きつける風の冷たさ。
  肌を叩き、容赦なく体温を奪う、雨。

  突っ立っているだけでも意識が遠のくような寒さなのに、
  2本の車輪でもって坂道を下らなければならない。

  そーすると見かけの風ってものが発生し、
  その風速は1mあたり約1度の計算で体感温度を下げてくれる。

  空気との摩擦で熱が生じているはずなのだが、
  そんなものは全く感じられない ( ったりめーだ )

     ミ★

  こうなれば総力戦である。

  衣類総動員法 ( んなもんねーよ ) を即時発動し、
  ザックの奥から寒さをしのげそうなものを引っ張り出す。

  が、みな、焼け石に水。
  ああ、なんて恨めしい喩えなのだろう。

  こうなると、さきほど、つい1時間ほど前に、
  温かい日差しの注ぐ、
  平和で陽気なキャンプ場で手放したウィスキーが惜しまれる。

  一転、こちらは寒冷地獄。

  キグナス氷河、あいつは寒冷系のマゾヒスト(?)に違いない、
  などと呟いても身体は暖まらない。

  青ざめてほとんど動かない指をだましつつ、
  のろのろと坂道を下り、
  Rのきついコーナーでは自転車を降りる。

  さすがにこのスピードでは、体重移動でコーナリング、
  なんてことは無謀以外の何者でもない。

  生まれて初めて下りで歩く。
  上りだって滅多に歩かないというのに。

  あしたは、どっちだ……。

     ミ☆

  どれほどの時間が経ったろうか。
  なんとか生きて人里に降りることができた。

  こんな表現が大袈裟でないほど、
  今回は冗談抜きに危険であった。

  いつもなら鼻歌で気分をほぐしてリズムを取り戻すのだが、
  そんなものは1曲目でプレーヤ自体がぶっ壊れてしまっていた。

  下りながらひたすら呟いていたのは、
  「 生き残るぞ! 」
  というヴァッシュ・ザ・スタンピードのセリフ。

  そして何故か、時たま混ざる、
  「 ラーメンだ、ラーメン食わせろ! 」
  という何者かの叫び。

  なんだったんだろう?(汗)

     ミ★

  下界は、幸いにも雨が上がっていた。
  太陽は隠れたまま。

  道端に温度計を発見。

  10°C……だと?

     ミ☆

  ラーメン屋発見。

  かなり汚いナリではあったが、
  ここは命にかかわる局面である。

  突き刺さる店員の視線を受け流しつつラーメンを注文。

  うまい、無造作にうまい。

  生きててよかった。

     ミ★

  宇登呂 ( うとろ )
  観光一色の町と行って良いだろう。

  地図を引っ張り出すと、
  「 日帰り入浴できる施設が少なく野宿派はつらい 」
  だそうだ。

  うぅむ。

  25km程先にウナベツ温泉とやらがある。
  普段なら1時間ほどの距離である。

  のだ、が。
  ついさっき地獄の門を遠目に眺めて来たような状態である。

  却下。

     # 天国じゃないらしい(笑)

  自販機を探し、ホットコーヒーで一服。
  本当はミルクティーが良かったのだが、
  紅茶○伝の甘みは堪えがたいものがあるので。

  車止めに座ったまま、どこからどうみても地元の人、を探す。
  情報を集めるのだ。

     ミ☆

  坂を上った所にキャンプ場があるというので、
  それこそ残った力を振り絞るように、その急坂と闘う。

  国設知床野営場。

  字面通りの、いかにもなキャンプ場。
  別に文句があるわけではないので、少し早かったがテントを張る。

  と、朗報。
  歩いて3分ほどの場所に共同浴場があるという。
  しかも新築、この時間なら人はまだ少ないだろう、とのこと。

  管理人のおっちゃんに礼を言ってテントへダッシュ ( 気分だけ )
  お風呂セットを大きめのスタッフバックに放り込み、
  軋む身体を引きずりつつ、温泉へ。

     ミ★

  湯に浸かってあっさり生き返る。
  これが、若さか。

     ミ☆

  日没まで間があるので、
  キャンプ場のまわりをぶらつく。

  と、数台の大型観光バス。

  改めて辺りを見回してみると、
  最後の秘境知床半島の片隅とは思えないほど、
  近代的な観光ホテルが立ち並んでいる。

  風情が、無い。

     ミ★

  ウトロの名物は夕日だそうだ。
  キャンプ場の隅、夕日の名所なるものがあって、
  日没の頃にはどこからともなく人が集まって来た。

  雲が邪魔ではあったが、
  なるほど、名所と呼ぶに相応しい景色である。
  つるかめつるかめ。

  自然解散。
  沈みきった後も少しぼーっとしていたが、
  蚊がうるさくなってきたので退散。

  さっさと寝る。

つづく     


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