知床 → 知床 3日目
■ 7月12日 (日)
いくら疲れが溜まっていたとはいえ、
昼間あれだけ寝れば夜中に目が覚めるのは道理というもの。
頭の辺りをゴソゴソやって腕時計を引っ張り出すと、2時。
14時ではなく、2時、26時。真っ暗である。
温泉にでも行こうかとも思ったが、
相変わらずの雨。却下。
昼間の電話を思い出し、
丸2年続けたサラリーマン時代を思い出す。
辞めていなければ今頃は、東京は四谷の地下2階の、
適温適湿、微かなオゾン臭とファンの発する重低音に囲まれ、
ブツブツ呟きながら試験項目をチェックしているのだろう。
それが。
北海道は知床半島の真ん中やや南の山間のキャンプ場、
その片隅の小さなテントの中で寝袋にくるまっている。
おかしなものだ。
ミ☆
目が覚めると、雨音が弱くなっていた。
テントに触ってみると、随分と湿ってしまっている。
ビニール袋をシャラつかせながら外に出る。
小雨はパラついてはいるが、空は明るい。
相変わらず水場に屯している連中に尋ねてみると、
どうやら低気圧は今日明日中に抜けるらしい。
撤収計画を練りながらテントサイトをふらつく。
と。
あっ!
ってな感じである。
いつぞやフェリーで喋った兄やんと再会。
北海道に着いたその日から、
そしてこの先半月ほど湯治だそうだ。
来年の今頃もここかもね、と。
ミ★
雨がやんだ。
待ってましたとばかりにテントに潜り込み、
自転車に乗る格好に着替える。
既に正午を回っているので今日もここで泊まりだが、
せっかくの太陽である、じっとしている理由は無い。
知床峠に上ってみる。
荷物無しだから楽かと思ったが、
ここ数日は弛みきっていたので、やっぱりキツかった。
それにしても、とんでもない規模の土木工事である。
信じ難い場所に信じ難いサイズの橋梁その他。
自然破壊なんて単語はスタックの底に沈み、
その建造物の威容にただただ驚く。
5合目付近で路面がドライに。
見上げると、薄い雲の向こう側、朧げながら太陽が見える。
無性に嬉しい。
ミ☆
が、8合目あたりでアッサリ天気が崩れる。
ヘアピンで自転車から降り、
のんびりと羅臼岳を眺めていた。
ふと気がつくと、
さっきまでその雄姿を称えていた雲がその主を覆いつくし、
山の天気は変わりやすいからなぁ、などと思っていると、
こちらの有効視界もあっという間に50mを切ってしまった。
峠まではもう1kmもないのは判っていたので、
急いで自転車にまたがり、再び坂を上り始める。
あまり良い判断ではない。
10分ほどで峠に着いたが、その頃には視界は10m前後。
歩道なんて気のきいたものは無いのでかなり危険であったが、
なんとか無事に到着。
それほど広くない駐車場と申し訳程度のトイレ。
観光客とおぼしき乗用車が数台、自転車が1台、霧に囲まれている。
晴れていれば非常に素晴らしい眺望なのだという。
ま、明日もう1回来るから、そっちに期待しよう……。
ミ★
駐車場の周りをぶらつく。
が、霧しか見えない。
戻ってくるとトラックが1台増えていて、
なにやら香ばしい香りが漂ってくる。
見ると、焼きとうきび ( とうもろこし ) 、いも団子等、
定番が並ぶ臨時の露店である。
カロリーメイトは持参していたが、
寒くて震えているような状態なので、温かいものが無性に恋しい。
需要と供給ってヤツか。
値段は高めだったが、
そこは北海道最後の秘境とも呼ばれる知床の山の中である。
少々の上乗せは納得できないことはない……のだ、が。
しかし。
そこから10mも離れていない場所には、
キッチリと駐車場内での売買は禁止云々と書かれている。
興醒め。財布をしまう。
ミ☆
駐車場から出て下り始める。
しばらくは霧の中だったか、5合目あたりで太陽に再会。
車は滅多に来ないので、無造作にセンターライン付近を走る。
ペダルを回さずとも軽く60km/h位は出る。爽快。
ミ★
キャンプ場に戻ると、時計はまだ15時前。
宿の心配をする必要はないので、
日没付近までブラブラしていて問題はない。
と、なれば、行く所は一つしかない。
知床半島の端である。
といっても岬を目指すわけではない。
そこまでは道が通っていない。
舗装道路の終点まで、である。
聞く所によると、
知床岬へはその終点から2日ほど歩けば行けるとのこと。
その昔、自転車で知床岬を行ったと聞いたことがあるが、
某とんぺー大学の気の狂った連中のことなので、
まぁ、参考程度に留めておくのが懸命であろう。
ほとんど押したり担いだりだったのだそうだ。
ミ☆
町へと通じる道を駆けおりる。
曇天、路面は未だウェット。しかし、空気は軽い。
国道から道道へ入る。
地図には知床公園羅臼線とある。
場所が場所だけにとんでもない所かと勝手に想像していたのだが、
予想に反してごくごく普通の漁村の風景。
道端の奇岩を眺めつつ、
今にも崩れて来そうな崖の下を抜けつつ、
思ったよりアッサリと終点に到着。
そういえば途中「 熊の入った家 」なるものがあった。
まぁ、そーゆーことなのだろう。
ミ★
終点には何があるのかというと、
ライダーハウスである。その名も熊の穴。
食堂もやっている。
お馴染みツーリングマップルには、
「 熊とトド料理 」とある。
暖簾をくぐると、意外にも普通の造り。
我ながら、一体何を期待していたのだろう?
トド焼肉定食、涙の1260円 ( 税込み ) 。
食感は、臭めの牛肉。
どうも今ひとつ空振り気味なので、
店の前にあった公衆電話から、
深い理由もなく大学時代の友達に電話をかける。
で、いま知床だから、で電話をきる。
ミ☆
往路は強烈な向かい風だったので、
復路は当然強烈な追い風である。
あまり力を使わなくてもスイスイとスピードが上がる。
快適。
そして、ついに地上(?)でも太陽と再会。
ほんの束の間だったが、久し振りの夏の日差し。
ミ★
が、キャンプ場に戻ると、雨。
再び、どよ〜ん、てな雰囲気。
湿ったテントの中でぼーっとしていると、
なにやら外が騒がしい。
時計を見ると、なるほど、夕飯時である。
て、ことは……、
温泉、すいてる?
着替えその他を抱えてそそくさと露天風呂へ向かってみると、
ふむ、なるほど、みんな考えることは同じか。
出直す。
ミ☆
キャンプ場3日目にしてようやく温泉に浸かったのは、
午前2時を回った頃であった。
# 日付が変わっているので正確には4日目
前評判では「 かなり熱い 」と聞いていたが、
それほどでもない。
が、どうやら私の皮が厚いというのが真相らしい。
雨に打たれ過ぎて温点が鈍ったかな?
つづく