結婚式 放浪編
■ 7月18日(日)
結婚式当日。
噂によると、式の前日は新郎新婦とも別の場所で、
それぞれの親しい人々と過ごすというのが一般的らしい。
伝え聞くところによると今日の主役はそれとは異なり、
自宅で新婦の友人達と呑気にくつろいでいたらしい。
ま、どーでもよいのだが。
披露宴は14時半からである。
ホテルの安っぽいバイキングで朝食を済ませると、
時計の針は10時を少し回ったあたりで黙っている。
いかにも中途半端な時間である。
数秒の協議の結果、自由行動となった。
暑いからタクシーを使おう、
タクシーならホテルの前に1〜2台は待機している、
会場までは10分もあれば十分に行き着けるだろう、
とりあえず1時間前に着いていれば問題ないだろう、
じゃぁ13時15分くらいに出発準備完了で良いね。
いかに過ごしやすい夏の北海道といえども、
暑い時期は暑いのだ。
ホテルと披露宴会場はそれこそ札幌のど真ん中であり、
旅行会社のパンフレットから想像するような、
軽やかに駆け抜ける涼やかな清風とは全く無縁の世界。
それに、AとBのスーツは、冬用だった。
致命傷である。
もう少し時期がずれていれば、
ブラブラするのにちょうど良い距離だったのだが。
ミ☆
アテらしいアテもないので、
大通り公園のベンチで ぼへーっとしていることにした。
ザックから文庫本を取り出し、
クラーク博士に会うと張り切るAに背中でエールを贈る。
ショーウインドウを眺めてみると、
間違っても観光客には見えない姿である。
実際、2度ほど道を尋ねられた。
ふと見慣れた看板が目に入る。
東急ハンズ。
瞬間的に内側の足首を捻って90°ターン、
8秒後に店内へ突入。
ミ★
店の作りは、基本的に渋谷や横浜、町田などのそれと大差はなく、
全フロアを巡ってみたが、扱っている商品も同様であった。
密かに北海道向けの特別な(?)アイテムを期待していたのだが、
残念ながらそれらしいものは見当たらなかった。
もちろん、探しきれていない可能性は高い。
扇子とボールペンを2本、それにシャチハタの認め印を購入。
って、なんつー観光客らしくない買い物やねん。
ま、それはそれとして、
関東のそれと違ったのはやはり客層であろうか。
日曜日の開店直後というのがどう作用するのか分明ではないが、
年配の方々が妙に多かった。
行動パターンはどこでも一緒なのかねぇ?
ミ☆
大通り公園。
個人的に、最も札幌を感じる場所。
木陰のベンチを発見、右隅に腰を下ろす。
寝転がるとちょうど良さそうなサイズなのだが、
1人で占有するのも詰まらない。
手元の重みは「 国家・宗教・日本人」。
司馬遼太郎と井上ひさしの対談集。
文庫判の第1刷は1999年の6月15日、
初版は1996年の7月とある。
司馬遼太郎が没したのは96年なので、
最晩年か追悼かというタイミングである。
氏の晩年の対談や随想の類いは内容が似通っているものが多く、
読み物としてはそれほど面白くはない。
のだが、
このところ、どうも国や宗教というものが気に懸っていたので、
とりあえずレジに運び、出発間際にザックに放り込んだ1冊。
とまれ、平和である。
これでもう少し涼しくて、
車道までの距離が3倍か4倍くらいあって、
隣に座ってイキナリ煙草に火をつける不心得者さえいなければ、
このためだけに北海道に引っ越しても良いくらいだ。
煙を逃れてベンチを代えること数回、
腕時計のアラームが鳴った。
そろそろホテルへ戻らねばならない時間だ。
ミ★
黒い礼服に着替える。
袖を通すのはこれで4回目。
いずれも結婚式だが、いつも、
「 そろそろ黒いネクタイも用意しとかなきゃな 」
などと考えてしまうのがどうにも心苦しい。
時計は13時10分。
ほぼ予定通り。
見通しの悪いホテルのロビーに集合した3人の黒服は、
言葉少めにポーチを抜けると、
やはり黙然とタクシーに乗り込むのだった。
どうやら服に着られているらしい。
つづく