冷蔵庫 敗走編
さらば冷蔵庫、安らかに眠れ……。
ま、それはいい。
形あるものはいつかは壊れるものだ。
諸行無常、盛者必衰、ふむ。
しかし、我が冷蔵庫くんの轟沈に伴って、
1つの問題が、それも、非常ぉ〜に大きな問題が発生した。
はっきり言って、緊急事態である。
この、昨日買いこんできた1週間分の食料を、
君は、いったい全体どないせーとゆーのだ?
無論、死人にクチナシ以前の問題で、
たとえ冷蔵庫が存命中であろうと、
彼 ( 彼女? ) はこんな疑問には応えてくれなかっただろう。
ナイト2000ではないのだ。
関係ないが、知人の知人の内藤二宣 ( ふたのぶ ) という男は、
ごくごく自然な成り行きでキットと呼ばれているという。
閑話休題。
そもそも、喋る冷蔵庫、喋る家電なんてのは、
考えただけでも邪魔くさそうである。
ここで言っているのは、
冷蔵庫のドアが開きっぱなしとか、
トイレの電灯が点きっぱなしとか、
玄関のカギを掛け忘れているとか、
そーゆー、
警告の類いを発する連中のことではない。
# こいつらもえーかげん鬱陶しいですが
あれは、喋るというよりも、
単に限られた小数の音声情報を固定的に記憶しているだけのことで、
私が言わんとするのは、たとえば、
「 今日の天気は? 」
と尋ねれば、
演算の後の間 ( ま ) すら考慮して、
「 夕方に一雨来そうだけど、どーせ残業するんでしょ?
心配なら折りたたみ傘持っていけば? 」
くらいのセリフを抜け抜けとホザクようなヤツらの事である。
言っておくが、こーゆーのが欲しいとゆーわけではない。
あったとしても、たぶん、遠からず人間が腐る。
確かに、たとえば老人の一人暮しなんてのには便利そうだが、
本末転倒であろう。
老人が一人暮しをしている社会に問題があるのだ。
より特殊な環境でなら役に立つだろうが、
一般的な生活には不要であると思われる。
ネクラ ( 死語 ) が増えるだけであろう。
まぁ、1人ボケにツッコミを入れられる家電ならば、
それはそれで笑えるかもしれない。
とはいえ、家電同士で漫才やられてもアレだし、
自発的にボケられても困るので、
やはり、企画段階で流しておくべきだろう。
ミ☆
これも一種の現実逃避なのだろうか。
どーも寄り道が長すぎる。
# 会社で書いてるからかな(汗)
閑話休題、
私は一人暮しのデフォルト残業サラリーマンであるので、
食料の買出しは必然的に週末に集中する傾向がある。
が、たまたま、ほんと、偶然に、である。
今になって考えてみれば、
神か仏かアルラーか、はたまた家電の精霊か、
きっと、そーゆー妖しげな存在の陰謀だったに違いない。
金曜日、運命の日。
どーゆーわけか、
非常に短い残業での逃亡に成功してしまった。
帰宅したのが19時頃。
このタイミングで近所のスーパーへ行けば、
ちょうど値下げの赤札が付き始める時間帯である。
噂では、明日の天気はあまり宜しくないらしい。
が、冷蔵庫の中は調味料ばかりである。
フリカケで過ごす週末とゆーのも、なかなか淋しいものがある。
悩むこと数秒、
部屋着を脱いでジーンズに足を突っ込んだ。
ミ★
絶妙という言葉がふさわしい。
惣菜売り場は既に赤札だらけであったが、
商品そのものは十分に売れ残っていて、
さらに、目の前の店員が2度目の値下げをスタートしたのである。
らっき〜☆
密かにほくそ笑み、
キッカリ2メートルの距離を保ちながらその店員の追跡を始める。
予想を上回る戦果に満足しつつも、
素早く次の戦場への移動を開始する。
グズグズしてはいられないのだ。
専門家の間では、閉店間際の赤札時間帯、
その1分1秒の重みはプラチナに喩えられている程なのだ。
# もちろん嘘です :-b
それはともかく、
嬉しいことに、今日のボーナスステージは妙に充実していて、
買い物カゴも、それに比例して重みを増していった。
数人の夏目さんをレジのおねーさんに渡し、
普段より重めのデイパと買い物袋をぶら下げて家路につく。
電灯に映える葉桜が香しい。
ミ☆
一夜明けて。
文明の象徴ともいえる蓄えられた食糧達は、
アッサリと危篤状態に陥っていた。
いわば冷蔵庫の道連れである。
とりあえず、肉を焼く、野菜もいっしょに焼く。
水分は胃を膨らます。
雨になるという流言は完全に否定され、
どこかのキャスターは、5月上旬並みの絶好の行楽日和と、
背後の映像に負けず劣らず晴れやかな笑顔。
窓から流れてくる暖かな風。
冬の間、ひたすらに待ち望んでいたのは、これではなかったのか。
時は卯月、騒がしい街中とはいえ、
萌え始めた新緑の息吹が伝わってきそうな、穏やかな、風。
しかし。
上昇する気温および室温に導かれるように、
冷蔵庫の周囲を包みはじめる、腐臭。
ヤツの死臭ってところだろうか。
とにかく、この1食に全てがかかっているのだ……。
ミ★
結局、一部の肉類、大半の野菜、ほとんどの牛乳。
これらは泣く泣く廃棄処分することになった。
それなりの保存力が期待できそうな3袋のソーセージは、
即席の水冷装置 ( バケツ+水 ) で様子を見る。
友人が持ち込んだままの缶ビールと、
まだ封を切ってないワインは日陰に移動。
冷凍食品を補充していなかったのは不幸中の幸いであろうか。
実際に計算したわけではないが、
第1次の損失額は、多分500円くらいであろう。
大衆食堂ならラーメンかカレー、吉野家なら並盛+味噌汁という、
まぁ、1食分に相当する額ではある。
しかしながら、不慮の事故とはいえ、
食料を捨てた事には強烈な後ろめたさが残る。
食べ物を粗末にするとお百姓さんに怒られるし、
地方によっては もったいないオバケ に襲われもする。
言いまわしはともかくとして、
チキンカツ定食650円也を半分も胃に収めないうちに、
「 もう、オナカいっぱい〜 」
などと腑抜けたセリフを吐いて立ち去るような人類の敵には、
いずれその罪にふさわしい天罰が下るであろうから、
今のうちから覚悟しておくのがよろしかろう。
つづく