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久しいね


  HDDクラッシュ事件で心身ともに疲れ果てて照明を落とした午前4時。

  横になっても どよ〜ん とした雰囲気を引きずったままで、
  ぼーっと、闇の中の、天井の、ボヤけた風景が脳ミソに染み込む。

  呑気そうに近寄ってきた睡魔は どこか職務怠慢気味で、
  浅い眠りと浅い覚醒の間をたゆたうこと数時間。

  なにげに眺めたカーテンは白くなっていて、
  この後にしばらく睨み続けることになった床も白っぽかったので、
  少なくとも東雲時は過ぎていたはず。

     ミ★

  ふと。

  右腕を下に寝ていたその背後で、「 カタッ 」っという何かの音。

  音源の見当をつけ、自分の位置と部屋の構成を思い出す。
  とりあえず、と、鏡を置いたあたりだ。

  その姿見の材質と構造を考えると、
  そこから出た音とは思えない。

  右隣には、折り曲げた長座布団。
  左隣には、未だに放ったらかしの、本の詰まった段ボール箱。

  どちらも、あのような音を発するとは思えない。

  寝ぼけ頭である。
  ここまで考えたのは上等といえるだろう。

  が、所詮は寝ぼけ頭である。
  「 ま、いいや 」と頭の中で呟いて、睡魔に声をかける。

  刹那、再び「 カタッ 」と、同じ音。

  今度は長座布団のあたり。
  左隣には鏡。
  右隣は、押し入れの正面にあたるので何も置いていない。

  その中からという感じではなかった。

  焦点の定まらない思考に、疑問の霧が入り混じる。

  数瞬後、好奇心が睡魔を追い払い、
  振り向いて ―― 寝返りをうって確かめようとした……が。

  あり? む、ぐぉ、こ、これはっ!

  体が動かん!
  さては、金縛か!!

     ミ☆

  脳ミソの発した指示は、しかし、体を小刻みに震わすのみ。
  指一本どころか、眼球すら動こうとしない。

  何度か体を動かそうと試みるが、どーにもならない。

  こりゃぁ何か、いるな。
  こんど、彩○さんに来て視て貰おうかなぁ。

     # 謎多き御方(謎)

  などと呑気に考えるあたり、少し余裕があるらしい。
  初めてではないですからね。

  とはいえ、どーゆー過程を経たのか、
  脳ミソの奥から込み上げてきた感情は、怒り。

  むぅ、なめるな、たかが心霊現象がっ!

  気合を入れて ( ? )、もう1度体に動けと命じる。
  む、ちょっと体が揺れた……ような気がする。

  うりゃ、動けってばよ!

     ミ★

  結果からいうと、
  数度に渡り敢行された突撃も、全て失敗に終わった。

  万策尽きて疲れ果て、白旗を携えてじっとしていると、
  おもむろに怒りは去り、冷静な思考が戻ってきた。

  まてよ。

  そーいえば、昔みたテレビで、
  金縛りは科学的に説明できるって言ってたな。

  確か、肉体と精神の睡眠は、普通は同時進行するのだけれど、
  なにかの条件で、片方だけ、
  この場合は肉体だけ先に眠りに落ちてしまった場合、
  体を動かそうとしても、
  命令がまともに伝わらないので動かない、動けないのだ、と。

  なるほど。
  これが それ か。

  しかし。

  原因が判明した ( ? ) のは良いが、対処法が分からんぞ。
  どないせーっちゅうねん?

  背後でまた「 カタッ 」。

  音が、近づいてるんですけど……。

     ミ☆

  気がつくと、顔の下に右腕があった。
  うつ伏せになっている。

  はて?

  体は……動く。
  が、痛い。

  額に触ってみると、
  ずいぶん汗をかいたらしく、脂っぽい。

  ……さて、と。


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