<BACK> <HOME>

酔漢


  「 竜馬がゆく 」を読んでいる。

  なんなんだろう、この面白さは。

  小中学生のおりに無理矢理書かされて、
  いまだに感想文の類いが苦手なゆえ、
  この心中をうまく表現できないのが口惜しい。

  文章が意識に流れ、溶け込んでゆく心地よさ。
  それが思考の中で再構成され、知識とか感情とか記憶とか、
  いわば自分そのものにぶつかって、なにかが響き渡る心地よさ。
  そして、時間を忘れる心地よさ。

  酔っぱらう。
  喩えるなら極上の美酒といったところか。

  ここ数年、本を読むたびに後悔を繰り返している。
  「 なんで今まで読まなかったんだ 」と。
  その中でも、久しぶりに大きいのが来た。

  だから、この本を中学とか高校の時分に読んだというヤツが、
  羨ましくて羨ましくて仕方がない。

  文庫判は全8巻、現在はその最終巻が進行中だが、
  ここまで、奔流のごとく突っ走ってきた。

  しかし。

  ハタと気づいて、急に脚が止まってしまった。
  このまま読みつづければ、明日か明後日には最終章に達してしまう。
  それはつまり……そう、頭の中で竜馬の死を描かねばならない。

  泣いてしまうだろう。

  どのような文章が用意されているかは、
  それこそ読んでみなければ判らない。
  だがやはり、泣いてしまうだろう。

  こちらを見ながらにやにや笑っているのは、
  確かに氏の描き出した竜馬像であろうし、
  私の内側でさらに変形してはいるだろう。

  実際の竜馬の「 人間 」は、
  一緒に酒でも飲んでみないと判らないだろう。

  しかし幕末、
  彼と同じ時代に生きた連中が、羨ましくて仕方がない。

  嗚呼。


<BACK> <HOME>