太平洋上 → 釧路港
■ 7月6日(月)
吹き抜けの二等船室。
微かな物音で目が覚めた。
時刻は5時を少しまわった頃だが、
泥棒が仕事をしているわけではない。
気の早いヤツが下船の準備を始めたのだ。
腕時計のアラームを確認して、
再び、浅い眠りへと意識を流し込む。
長い髪を紅く染めた、年の頃は24という所だろうか、
端正な顔だちをした女性に肩を叩かれて目が覚めた。
腰から下が鱗で被われていたというのは、
はたして何を象徴しているのだろう。
吉夢なら良いのだが。
着替えを済ませ、係員の指示に従って船倉へ。
自転車はここだと言われたデッキへ行くが、風景に見覚えがない。
どうやら、出港間際に乗り込んだ為に、
通常は自転車を置かないような場所へ誘導されたらしい。
記憶を頼りに、デッキ中央の階段を降りる。
途中、船内で知り合った兄やんと遭遇するが、
船と車とバイクのエンジンの音で、声は全く通らない。
またどこかで会おうと、手を振って別れる。
勘は当たり、自動車専用のデッキで愛車に再会。
白いポルシェの隣で 静かに佇む姿が美しい。
( カタナだったら面白かったのにな )などと呟くが、
やはり自分の耳にすら届きやしない。
定刻に釧路到着。
空き地を探し、荷物の確認。
2輪車はバランスが命だ。
おざなりな荷作りはトラブルしか呼んでこない。
そう、自分のペースで歩けばいい。
そう自分に言い聞かせ、黙々と作業を続ける。
ライダー達が飛び立ってゆくのを横目で見送りながら。
メータをリセット。
奇麗にゼロが並ぶ。
制動系と駆動系のチェック。問題なし。
筋肉も適度に暖まり、体調は……機嫌は良さそうだ。
しかし、行き先はまだ決まっていない。
ザックの奥から賽子を引っ張り出す。
困った時の4面ダイスだ。
北の大地、その、ほんの片隅で、
微かな音が、しかしはっきりと、東へ行けと囁いた。
なら、行こう。
ビンディングが噛み合う小気味良い音が、
静けさを取り戻しつつあったフェリーターミナルに響く。
ペダルの回転数を上げる。
滑るような加速、心地よい疾走感。
湿度の低い、涼やかな風が駆け抜ける……。
7月。
北海道はまだ寒い。
ミ☆
そんな訳で、イキナリ道に迷いましたとさ(笑)
つづく