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密室


  通勤電車。

  ものすごい密度で人間が詰まっているというのに、
  不思議なことに、面白いことに、静かです。

  もちろん電車そのものの音はうるさいのですが、
  運の悪い時にどこかのアホが垂れ流している音楽とか、
  セキやイビキとかが耳に入ってくるくらいで、
  乗っている人間たちは、皆、じ〜っと、黙っています。

  たまに、喋っているヤツがいます。

  声の質にもよりますけど、
  周りが静かなぶん、すごく良く聞こえます。
  当然、会話の内容なんて筒抜けなわけです。

  まぁ、そんなこんなで、
  皆、じ〜〜〜っと、黙っています。

       ミ☆

  先日、月曜日の21時過ぎ。

  忘年会の季節ではありますが、
  さすがに週の始めからとゆー訳にはゆかないのでしょう、
  遅めの時間帯ということもあって、
  車内は重苦しい雰囲気に包まれていました。

  ら、携帯の呼び出し音。

  最近では「 車内では電源オフ 」がマナーとして定着しつつあり、
  受けるにしても、後で掛け直す旨のみを伝えて、
  さっさと切ってしまうとゆーのが一般的のようです。

  そした、ら。

  10分ほど、その、コロコロと良く響く声は、
  静まり返った乗客の耳を一人占めしたのでした。

       ミ★

  アタマ、悪そうだな、いや、悪いよ、うん。

  ま、別に、ウルサイのはまぁ、許容範囲やけど、
  その、イヤでも聞こえてくる内容が、
  どうにも、程度が低ぅて、ねぇ。

  私の居る場所からはそのアホ娘の姿は見えなかったのですが、
  でも、案外、こーゆーのに限って可愛かったりするんだよなぁ、
  そしたら、
  やっぱ、許しちゃうかな、男としては。

  などと、我ながら下らないことに脳ミソの時間を割いていると、
  「 じゃね〜、ばいばい☆ 」
  てな具合に用事が済んだようです。

  再び、電車の中は沈んだ空気で満たされました。

       ミ☆

  と、思った矢先に、再び聞き慣れた声。
  今度は、発信したようです。

  さっきとは少々質の異なる空間にシフト。

  集団心理ってやつが動きだすのは、
  こーゆー初期状態を経てなんだろうな、うん。

  相手はどうやら彼氏らしく、
  さっきとは違う、甘ったるい猫なで声が、……ムカツク。

  ケッ、可愛いかったら許してやるからな、覚悟しとけ。

  視線だけで、意味不明な最後通牒を突きつけると、
  咳払いをひとつ、手ものとの文庫本へと意識を集中。

       ミ★

  「 あ、駅に着くから、じゃぁね、おやすみぃ★ 」

  8分も喋りやがって。

    # って、おもいっきり意識しとるがな(笑)

  とりあえずツラだけは拝んでやろうと、
  声の発生源付近に視線を泳がせると、
  オヤジの群れのほぼ中心、いた、間違いない……。

  む!

  くぅ、いいよ、許してやるよ、
  許すからさっさと消えちまえってんだ、ったく、よぉ。

  現実は小説よりもなんとやら。

  次元を越えたブサイク具合に自らの想像力の限界を感じた、
  冷気が一段と脳ミソに染みる、ある晩の出来事でした。

  モザイクくらいかけとけってんだ、べらんめぃ (T T)


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