第六章 〜 クリスマスには綺麗な君と… 〜  


 めぐみちゃんを追ってきた僕であったがど  
こまで走っても彼女の姿が見つからない。い  
ったいどこへ行ってしまったんだ。もう校内  
にはいないのだろうか。僕は足を止め、彼女  
の行きそうな場所を考えてみる。…そうだ、  
あそこだ。あそこに違いない。あの二人だけ  
の場所…『藤の丸神社』に…。        
 僕は再び走り出し、神社を目指す。そして  
あの100段近くある石の階段を駆け登り神  
社の裏へ抜けると壮大な街の風景が眼に飛び  
込んできた。その中に一人で立っている彼女  
の姿を見つけた。              
「はあはあ…めぐみちゃん、やっと見つけた  
 …。」                  
 しかし彼女は振り向かない。やはり怒って  
いるのか。                 
「めぐみちゃん。僕の話を聞いてくれるかい  
 ?今のは誤解なんだ…」          
「…うそつき…」              
「え?」                  
「タカ君のうそつき!!あんな事を私の見せ  
 るためにあそこに呼び出したの!?」    
 どうやら彼女は僕に騙されたと勘違いして  
いるようだ。                
「めぐみちゃんそれは違うよ…」       
「何が違うのよ!!タカ君はあの子と…あの  
 子とキスしてたじゃないの!」       
「それは違う!あれは誤解なんだ!!僕は騙  
 されたんだよ。そして君も…」       
 僕は彼女の肩をつかみ、こっちを振り向か  
せる。                   
「めぐみちゃん…よく聞いてくれ。あの時僕  
 は藤村さんに騙されてあそこへ行ったんだ。 
 君が僕に大事な話がしたいって手紙をもら  
 ってね。もちろんあの子が書いたものさ。  
 御丁寧に君の筆跡を真似てね…」      
「今更そんな話聞きたくない。」       
 彼女は僕の話を受け付けようとはしない。  
「どうして?君もあの子に手紙をもらってあ  
 そこに来たんだろ?ほら、騙されたんだよ、 
 あの子に…君も僕も。」          
「そんな事どうでもいい!!」        
 彼女は泣きながら首を横に振る。      
「どうでもいいことはないだろ!君は僕の言  
 うことが信じられないのか!?」      
 ギュッと肩をつかんでいる手に力を込め、  
彼女に問う。                
「わからない…。わからないのよ!あんなモ  
 ノを見せつけられたんだもの…。」     
 「あんなモノ」…その言葉に僕は自分のふ  
がいなさを感じた。油断していたとはいえあ  
んなに簡単にキスされるなんて僕が悪かった  
んだ。                   
「どうしたら、どうしたら信じてくれるんだ  
 !?教えてくれ!僕は君に信じてもらえる  
 なら何だってするよ。」          
「本当?」                 
「ああ本当さ。さあどうすればいいんだ?」  
 彼女の表情が変わり始めた。さあ何だって  
言ってくれ。                
「…キスして…そして私を抱き締めて…逃が  
 さないようにして!」           
「え?」                  
「できないの?あの子にはしたじゃ…」    
「できるさ!!」              
 僕がそう叫ぶと彼女は目を閉じた。僕はゆ  
っくりと右手を彼女の頭の後ろにまわし両手  
で彼女を抱き寄せ、そして唇を重ねた…。彼  
女の唇はとても柔らかく周りの寒さのせいか、 
少し冷たい。僕は両腕に力を込め、強く彼女  
を抱き締める。しばらくするとゆっくり彼女  
の腕が僕の背中にまわり、そして力が込めら  
れる…。                  
 僕は今めぐみちゃんとキスをしている。そ  
う考えるとなぜか安心した気分になる。それ  
は彼女も同じであった。彼女の唇がゆっくり  
と離れていき、そして再び重なる。もう安心  
だ。僕は唇を離すとじっと彼女の顔を見つめ  
た。泣いていたせいで少し目の周りがはれて  
いる。しかしめぐみちゃんの可愛さは少しも  
そこなわれていない。            
「やっぱりめぐみちゃんは可愛いな。」    
 そう言って僕は微笑みながら彼女を抱き締  
める。しばらくして彼女が口を開いた。    
「…私、怖かったの。あの子にタカ君を取ら  
 れそうな気がして…。でも、もう大丈夫。  
 だってこんなに愛してくれているんだもの。 
 タカ君に抱かれているととっても安心する  
 の。これって『愛』よね。」        
「そうだよ。僕は君と一緒にクリスマスの夜  
 を過ごしたい。綺麗な君とね。…愛してる  
 よ。めぐみ。」              
「私もよ。貴広。」             
 そして僕達はもう一度キスをする。この瞬  
間今までの『好き』が『愛』に変わる。気が  
付くと空から雪が降り始めていた。      
「あ、雪。綺麗。」             
「今年はホワイト・クリスマスになりそうだ  
 ね。」                  
「そうね。」                
 しばらく雪の降る中でたたずんでいたが、  
暗くなってきたのでそろそろ帰ることにした。 
石の階段を降りると目の前に誰かが立ってい  
る。よく見るとそれは藤村さんであった。   
「藤村さん、どうして君がここに?」     
「椎名先輩、私白石先輩のこと諦めます。だ  
 ってあの時の…椎名先輩を追う時の白石先  
 輩の顔を見たら分かります。白石先輩の中  
 には私の入るすきなんて全然無いんです…。 
 だから私諦めます。それにもう私には……。 
 …長い間御迷惑を掛けてすみませんでした。 
 それでは、お幸せに…」          
「藤村さん…」               
 少し意味ありげな言葉を残して彼女はこの  
場を去る。しかしそれが何を表しているのか  
は今の僕達には分からなかった。そして一人  
歩く彼女の背中はとても悲しそうだった。で  
もそれは仕方ないことだ。それにしてもやっ  
と諦めてくれた。長かったなあ。これでもう  
悩むことは何も無い。気持ち良くクリスマス  
が迎えられる。               
 僕はめぐみちゃんを家に送り、そして自分  
の家に帰った…。              



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