第一章 〜 きっかけを探して… 〜  


 あの日からもう半年もたつというのにまだ  
何も行動していない自分が情けない。とりあ  
えず彼女について分かったことは、「椎名   
めぐみ」という名前と僕と同い年ということ  
だけ。何とかして彼女と接してみたいのだが、 
やっぱり小説みたいな出会いは存在しないの  
かな。と、今日もいつものように小説を読み  
ながら物思いにふけっている。        
「おっ、タカじゃんか。こんなところで何一  
 人ボーッとしてんだ?」          
 シゲである。二年生になってクラス替えが  
あったのでしばらく会っていなかったが、全  
然変わっていないのは当たり前か。      
「ボーッとなんかしてない。この小説がお前  
 の目には映ってないのか。」        
「何が小説だよ。お前の視線はまっすぐ前を  
 向いてたじゃねぇか。最近お前なんかおか  
 しくなっちまったんだよなぁ…。ははーん、 
 さてはお前『恋の悩み』だろ。そうだ、絶  
 対そうだ。」               
「ば、ばか。何勝手なこと言ってんだよ。」  
 いきなり自分の心を見透かされたようで、  
僕はかなり焦った。こいつは彼女持ちだけあ  
ってこの手の話だけには妙にカンが鋭い。   
「何だ、違うのか…。チェッ、おもしろくね  
 ぇな。」                 
「おもしろくなくて結構だよ。」       
「最近お前の視線が演劇部の『椎名めぐみ』  
 に集中していたから絶対そうだと思ったん  
 だけどなぁ。」              
「シゲ、お前、彼女のこと知ってんのか!?」 
 と、思わず叫んでしまったが、よく考えた  
らシゲの彼女は演劇部だから知っていてもお  
かしくない。僕としたことが墓穴を掘ってし  
まった。ちらっとシゲの方を見ると、口元が  
ニヤッとしているのが確認出来た。      
「やぁーっぱりなぁ。タカ、あの娘のこと好  
 きなんだろ?」              
 何とも嬉しそうに僕に答えを求めている。  
こうなったらもう諦めるしかない。覚悟を決  
めて打ち明けよう。             
「そうだよ、一年の時の文化祭で彼女を見た  
 時からだ。」               
「ほほう。貴広殿は椎名めぐみというおなご  
 が好きなのでござるか。いやはや何とも。  
 しかし、拙者は修行中の身でござるからし  
 て女は必要ないでござるよ。はっはっはっ  
 は…では、ごめん。」           
「真乃介!?」               
 突然背後から話し掛けられ、僕とシゲは驚  
きながら振り返るとすでに真乃介の姿はなく、 
ただ軽快に走り去る足音だけが廊下に響いて  
いた。僕とシゲは心の中で「何しに来たんだ  
?あいつ…」と思いながら数秒間誰もいない  
廊下を眺めていた。真乃介は中学からの友達  
だが、中二の時に忍者に興味を持ちだしてか  
らはもう自分は忍者の子孫だと思いこんで、  
言葉遣いから性格まで変わってしまった。そ  
れに名前も気に入っているらしい。しかし、  
根はいい奴なので僕等は特に気にしていない  
が、かなり変わっているのは確かだ。     
「…で、何の話だったっけ?」        
「何の話だったと思う? 貴広君…?」    
 少し笑みを浮かべながら僕に聞き返してき  
たシゲの顔を見ると僕はすぐに話の内容を思  
い出した。                 
「あの娘ってなぁ、結構モテるんだぜ。お前  
 は知らないかもしれないが、狙っている奴  
 はこの学校に結構たくさんいると思うぜ。  
 ま、彼女は女優めざしているだけあって下  
 心のある男はすぐに見破れるらしく、まだ  
 彼氏はいないらしい。」          
 自分の彼女から聞いたのだろうが、さすが  
によく知っている。やはり、持つべきものは  
友だ。                   
「あっ、そうそう。彼女はロマンチックな男  
 性が好きなんだってよ。まぁこの話は全部  
 俺の彼女から聞いた話なんだけどな。…と、 
 女の話をしてたらゆかりに会いたくなって  
 きたなぁ。よし、会いに行くか。それじゃ  
 あ貴広君、頑張ってね。」         
 と言うや否やシゲはさっさと教室を出てい  
ってしまった。               
「そうか…ロマンチックか…」        
 シゲも帰ってしまってまた一人になった。  
とりあえず暇なのでいつもと同じ様にそこら  
を散歩する。                
 二年生になってシゲも真乃介も別のクラス  
になってしまってからは、毎日放課後にシナ  
リオなどのネタ探しのために校内を散歩する  
ことが日課となっていて、校舎からグラウン  
ドのクラブ風景を眺めたり、別館にある図書  
室に行って小説を読んだりしている。     
 一見、意味の無い行動に思えるかもしれな  
いが、毎日のネタ探しはシナリオライターに  
とって重要な行為である。          
 そして、僕にとって放課後図書室に行くこ  
とは演劇部の彼女を一番近くに感じることが  
できる唯一の時間なのだ。なぜなら、図書館  
のある別館の裏にある旧校舎を貸し切って毎  
日演劇部が活動しており、この図書館からは  
その練習風景がよく見えるからだ。もちろん  
彼女の姿も…。               
 僕は図書室の顧問である「岸本美夏」先生  
と仲が良く、小説を書くためと言って毎週月  
曜から金曜の放課後5時まで図書室を開けて  
もらっている。というのも、僕は二ヶ月に一  
度図書委員とその他の有志で発行している同  
人誌に小説の連載を受け持っているので、彼  
女を見るかたわら小説書きに従事している。  
「あーあ、今日も特になーんにもなかったな  
 ぁ。でも、彼女について少し分かったから  
 いいか…。」               
 いつも通り本校舎の横にある通路を抜けて  
別館へ行こうとした時、ふと別館の入口に目  
をやると誰かが立っている。         
 …彼女だ…。               
 そのとき僕はなぜか恥ずかしさを感じてう  
つむいたまま早足で別館の中に入ろうとした。 
そして彼女の横を通り抜けようとした瞬間…  
「あ、あのぅ…。」             
 彼女の口が開き大人っぽいがまだあどけな  
さの残る、そんな綺麗な声が僕を呼び止めた。 
僕はすぐさま足を止め、彼女の方へ視線を向  
けた。                   
「白石…たかひろ…君…ですか…?」     
 彼女は僕に恥ずかしそうにそう訪ね、こっ  
ちを見ている。「なぜ彼女が僕の名前を知っ  
ているんだ?」という疑問を抱きながら僕は  
答える。                  
「そう…だけど。」             
「あの、と、友達に、『白石貴広』って人が  
 私に用があるからここで待ってて…って言  
 われて待ってたんですけど、私に用って何  
 …ですか?」               
「へっ!?」                
 予想外の彼女の言葉に僕は驚きを隠せなか  
ったが、これは彼女と接するのにはいいチャ  
ンスだと思い、ここは彼女に合わせることに  
した。                   
「えっと…あの…『椎名めぐみ』さん…です  
 よね…?」                
「はい。」                 
 合わせようとしたのはいいものの、どうし  
たらいいか迷ってしまって、うまく言葉が出  
ない。                   
「えっと、あ…僕、僕と…と、友達になって  
 ください!」               
 何を早まったのか、いきなりこんな事を言  
ってしまい、僕は耳まで真っ赤にして動きが  
止まった。                 
「ええっ!?」               
 さすがに彼女も驚いたらしく、ビックリし  
た顔のままで僕を見ている。彼女が驚くのも  
無理はない、言った本人も驚いているのだか  
ら。                    
 それからしばらく彼女は僕の方をじっと見  
ていたかと思うとニコッと微笑み、そして…  
「いいですよ。」              
 と、一言答えた。             
 そのとき僕は何とも言い表し難い幸福感に  
包まれた。やっときっかけがつかめた。その  
ことでもう僕の胸は一杯だった。       
 それから僕が「ありがとう」とお礼を言う  
と彼女は「部活があるから…」と言って、旧  
校舎の方へ走り出した。僕は、彼女が角を曲  
がって見えなくなるまで彼女の後ろ姿を目で  
追っていた。そして、何事も無かったように  
別館に入り図書室に向かった…。       



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