『星を見るのが好き』



 よく晴れた日の午後10時過ぎに、僕は一 
人ベランダに出て夜空の星を眺める。毎日星 
を見るのが楽しみだった。こんな事しか楽し 
みが無いのは今までの僕だ。そう、今はもう 
違う…。なぜなら新しい楽しみ、新しい星を 
見つけたのだ。              
 新しい星というのは昼間でも見える星であ 
り、僕にはとても輝いて見える星だ。しかし、
名前はまだ知らない。分かっているのは、僕 
と同じ学校に通い、同じ通学路を通る女の子 
…ということだけ。            
 そう、つまり僕は今、片思いの相手に恋を 
している。初めての恋だ。         
 彼女は太陽の光に当たると少し茶色く見え 
る肩まで長い髪と、やせてはいるが程良い肉 
付きでなんとも抱き心地の良さそうな身体、 
そして一般的に見れば美少女の域に入るよう 
な可愛い顔の持ち主だ。          
 これだけ好条件が揃っていれば他の男達が 
黙っているはずがない。と、思いながら毎日 
通学路を歩いている彼女の横を自転車で通り 
過ぎるだけで満足感にひたっている気弱な僕 
である。                 
 そんなある日、僕に幸運の女神が少し微笑 
んでくれた。               
 その日もいつもと同じように朝、自転車に 
乗って学校へ出掛けた。しばらくいつもと変 
わらない道を通り過ぎ、カーブを曲がり、彼 
女といつもすれ違う道へと出た。すると、そ 
こに誰かがうずくまっている。       
 ……彼女だ。              
 よく見ると、足を手で押さえて苦痛の表情 
を浮かべている。僕は彼女の側に自転車を止 
め、声を掛けた。             
「足を痛めているようだね…。大丈夫かい?」
 僕は少し大人ぶった口調で話し掛けたが、 
声は震えていた。             
「えっ? あ、はい。大丈夫…です。少し転 
 んだだけですから…。」         
 少し驚いた表情を見せて彼女はそう答えた。
何もないこの道でどうやって転んだのかは分 
からないが、足が大丈夫ではないのは一目瞭 
然だった。                
「その足では歩くのがつらいだろ。後ろに乗 
 りなよ。学校まで乗せてってあげる。」  
 と、半ば強引に彼女を自転車の後ろに乗せ 
て学校へ向かったが、やはり最後まで声は震 
えていた。                
 彼女の方も小さな手で僕の腰のあたりを恥 
ずかしそうにつかんで、一言も喋らなかった。
ひとつも言葉を交わさなかったが、小さな手 
の感触がとても新鮮だった。いつも気弱な僕 
がこんなにも強引なことを出来たのは、僕が 
本番には強いタイプだったからなのだろうか。
 なにはともあれ、彼女と接することが出来 
ただけで満足だった。とりあえず彼女を保健 
室へ連れて行き別れたのだが、ここで名前を 
告げるのを忘れたのと、彼女の名前を聞くの 
を忘れたのが失敗だった。         
 その翌日、いつもと同じようにカーブを曲 
がり、彼女がいる道へと出ると彼女が一人立 
っていた。だれもいない朝の道に二人…。僕 
はゆっくりとスピードを落とし、彼女の前で 
自転車を止めた。そして彼女が口を開いた。 
「昨日はどうもありがとうございました。私 
 は二年生の鈴木さやかです。あなたは三年 
 生の神楽勇介さんですね。」       
「えっ…!?」              
 彼女はなぜか僕の名前を知っていた。驚い 
ている矢先、彼女は言葉を続けた。     
「いつもあなたを見てました。昨日は驚きと 
 恥ずかしさで何も言えませんでしたが、と 
 ても嬉しかったです。もし…、もし良けれ 
 ば私と…」               
「僕はね、星を見るのが好きなんだ。」   
 彼女の言葉をさえぎって自分の気持ちを伝 
える。                  
「君という輝く星をね。」         
 この言葉を言い終わった時、僕の身体は熱 
くなり、彼女はとびきりの笑顔を僕にプレゼ 
ントしてくれた。             


        ラヴ・ストーリー    
  今 新しい 恋物語 が はじまる…  


         Fin.        


図書室に戻る