黒姫伝説
いろいろな説がある黒姫さんですが、ここでは主に伝えられている2つの言い伝えを紹介します。個人的には『黒姫その1』が黒姫さんのお話として子供たちに語り継ぎたいと思うのですが皆さんはいかがですか?
『黒姫伝説その1』 『黒姫伝説その2』

黒姫伝説その1

今の長野県中野市に、戦国時代、高梨氏という一族が勢力を張っていました。
高梨氏の武将高梨政盛(一説では政頼)に黒姫という美しい姫様がいそうです。

ある日、殿様は黒姫をともなってお花見に出かけました。
その花見の宴のさなか、黒姫の前に一匹の白い蛇が現われた。
宴の楽しさにつられて出てきたのだろう、と殿様は上機嫌で「姫、あの蛇にも酒盃をあげてやりなさい」と娘の黒姫に勧めた。
黒姫は蛇を怖がらずに、酒盃を白蛇の前に差し出し蛇は嬉しそうにそれを飲み干すと去っていった。

その後、この殿様のところに一人の立派な姿の若者が訪れた。
「私は、あのお花見の宴の時、黒姫からお酒をいただいた者です・・・」殿様は彼の話に驚いた。
若者は、「自分は、志賀高原の大沼池に棲む龍だ」というのである。
白蛇に化けて散策していたところへ、花見に来ていた殿様一行と出くわし酒を飲ませてくれた黒姫の姿が忘れられないと言うのだ。
「姫をさらうのはたやすいことですが、それでは道理に反するのでこうして伺いに参りました。黒姫をぜひ妻に貰いたいのです」
当然殿様は断わった。人でない者に大事な娘を渡せなかったのです。
しかし、この龍はその後も、毎日毎日殿様のもとを訪れお願いした。
屋敷を厳重に警備しても無駄だった。龍は必ず殿様の前に現われた。
そして、龍の熱心な姿に、いつしか黒姫は龍に心ひかれるようになる。

心配になった殿様は部下と相談し龍に策を仕掛けた。罠にまんまと陥った彼は、殿様たちから殺されそうになる。
「礼をつくした返答がこれか!」龍は激怒し、本性を現わすと、たちまち天にかけのぼった。

そのとたん、あたり一面が大嵐に襲われた。あちこちで洪水がおこり、あたり一面地獄のような光景と化した。
やさしい黒姫はこれを見て、矢も盾もたまらず「龍よ、私はあなたのところへ行きましょう。だから嵐をしずめておくれ」と龍に呼びかけた。
その声を聞きつけ龍が天から下りてきて、黒姫を乗せると再び天にかけのぼった。
龍は妙高と戸隠の間の山に降りたち山頂の池で黒姫と暮らすようになった。
以後、その山を「黒姫山」と呼ぶようになったそうです。

jこのお話は、黒姫童話館編『童話の森』/子安美知子監修銀河書房
に収められています。

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黒姫伝説その2

時代は天文年中(戦国時代)、舞台も今の長野県中野市です。
武将高梨政頼には、黒姫という美しい娘がいた。
ある日、政頼は、家来と黒姫を伴って、志賀高原の大沼池へ花見に出かけた。

花の宴の翌日、一人の若者が、殿様に対面を申し込んだ。
立派な身なりなので、受け付けた武士が用件を尋ねると、黒姫に求婚を申し込みにきたと言うのだ。
早速、武士は彼を待たせ、家老にこの話を伝えた。
そして、家老と供に戻ってみると若者の姿はもはやいなかった。

この不思議な若者は、翌日も、翌々日も訪れては、同じことを言っては消えた。
殿様もさすがにこれには何かあると感じ、家来と相談して若者にある策略を仕掛けた。
この策略にはまった若者は、大怪我を負って消えてしまった。
殿様は家来に命じ残っている血の跡をたどらせると、いつか黒姫と花見に出かけた大沼池まで続き、そこで消えていた。
その日から、若者は現われなくなり一同はホッとした。

ところがある日、化粧をしようと鏡にむかった黒姫は悲鳴をあげた。
首から胸にかけてびっしりと蛇のようなこけらが生えていたのだ。
殿様はありとあらゆる力に頼って、黒姫の体を治そうとしたが、姫の体は治るどころかこけらは全身におよび、次第に蛇の体のようになっていってしまった。

悲観した黒姫は乳母のお種さんを連れて、家を出た。
彼女は妙高と戸隠の間にある山の山頂にたどり着いた。
そして、もはや人間の姿ではないから…と、自分の化粧道具を捨てると、それは7つの池となった。
最後に両親からもらったお守りを捨てると、それは大きな池となり、彼女はそこに身を投げた。乳母もその後を追った。
以後、黒姫が捨てた化粧道具でできた池を「7つ池」、黒姫自身が身を投げた池を「大池」お種さんが身を投げた池を「種池」と呼んだ。

しかし、それでも大沼池の主の怒りはおさまらず、高梨家の領地に洪水を起こし、何もかも押し流してしまった。

このお話は
『野尻湖と伝説』(塚本啓 著/株式会社 信州)に収められています

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