おいら7歳
色鉛筆&パステル/用紙A4 慈音=玲音 画 2002.06.16


出会い〜PILGRIMS PROGRESS

眠らない街…ザナルカンド。
話には聞いていたが、そこはまさに夢の街…だった。
大きな機械仕掛けの建物に圧倒されながら、人を探して歩き回っていた。

もう、夕暮れが近づこうとする頃、ようやく、家路へ急ぐ人の波に、小さな少年の姿を見つけた。
一見、迷子にも見えるが、そうではない。この街をよく知っている、しっかりした足取りで歩いていた。

少し、あとをついて歩いてみると、やがて少年は1枚の古いポスターの前で足を止めた。
…ポスターを見上げる。
そこには、この街のヒーローとも言える男の写真が、無敵の笑みを浮かべていた。

数ヶ月前に行方不明になったこの英雄を、どんな思いで見上げているのだろう…。
小さな背中に、ゆっくりと話しかけてみた。

「ジェクトの息子は…お前か…?」

しかし少年はすぐには振り向かなかった。肩でひとつ息をしてから、ゆっくりとこちらを向いた。

「……ぁ…」

だが、一瞬息を飲んで、少年は2、3歩後ずさる。が、構わず続ける…
「おそれることはない…。俺は…ジェクトの知り合いだ…」
しかしそう言っても、少年は怯えたままだった。
金髪に近い薄茶色の髪。華奢な体つき…涙が溢れそうなブルーの瞳。
この子は、ジェクトの息子…なのだろうか…?人違いだったか?
少々不安になった時、消え入りそうな声で少年が口を開いた。

「アイツなら…いないよ」
そう言って、少年はぷいっと横を向いた。
「アイツなんか帰ってこなければいい…」
それは、゛嫌悪感゛とも言える言い方だった。まるでジェクトの話をされるのを、全身で拒んでいるような…
……なぜ、そんなことを言う……父親を、嫌っているのか…?
そんな話は聞いていない。なぜなら…ジェクトは………
ジェクトはあんなにも……。

「お前―――」
湧き上がる感情をそのままぶつけそうになったが、その衝動をぐっとこらえた。
相手は……幼い子供だ。
「人に話をする時は、ちゃんと相手の顔を見るものだ」
少年は、恐る恐るこちらを見る。
「だって……血が…」
「……血?」
「………」
「……ああ…これか…」
自分の顔に手をやる。右目の上を走る大きな傷。
「心配ない…すぐに……治る」
これ以上怯えさせぬよう、少し話の方向を変えてみることにした。

「母親は…どうしている?」
少年は答えなかった。……代わりにうつむいた瞳からポタポタと涙が落ちる。
「なぜ泣く。…ちゃんと話をしてみろ…」
子供の扱い方は分からない。苛つく気持ちもあったが、とりあえず傍へしゃがんで顔をのぞきこんでみた。
「…お母さん…病気になった……あんまり話してくれなくなった……」

俺はひとつ溜息をついた。…少々やっかいなことになっているらしい…。
もちろん原因は父親の突然の失踪…だろう。だが、こんな時こそ、母親はしっかりするものではないか?
幼い少年は、こんなにも心細げに涙を流す。
「…わかった。もう…泣くな」
俺は少年の頭をくしゃくしゃと撫でた。

とりあえず、母親に会おう。…そう思って立ち上がると、少年が服の裾を遠慮がちに掴んでいた。
「…お前……」
言いかけて俺はハッとなった。

――どこかで見た光景。

ここへ来る前、俺は旅をしていた。命賭けの…旅だった。その旅の仲間の一人には、幼い娘がいた。
出発の朝、幼い娘は父親の服の裾を掴んでいた。目にいっぱい涙を溜めて……だが最後までその子は
「行かないで…」とは…言わなかった。…旅の意味を…充分に理解していた…。
俺達は、幼い娘をおいて…旅に出た。…そして……2度と…帰れなかった。

あの子は…どうしているだろう。…仲間との約束を守れなかった罪悪感が俺を責める…。
…いや、まだ終わっていない。
約束を守るために…俺はここにいる…。

「大丈夫だ」
俺は再び少年の頭を撫でた。
「お前の家に・・・案内してくれ」
そう言うと、少年は小さく頷き、俺の手をひいて歩き出した。
小さな手……頼りない背中…。本当に、あの豪快なジェクトの息子なのだろうか…?
もう1度たずねようとした時、人ごみからの声が耳に入る。

「ねぇ…あれ、ジェクトの息子じゃない?」
「あ、ホントだ…ジェクトの息子だ」

すると少年は立ち止まり、声のする方をキッと睨みつけた。

「ジェクトの息子ってゆーなっ!!」

なかなかの迫力に、声の主達は首をすくめて立ち去って行く。
…俺は笑いをかみしめた。
「ふっ……ジェクトの息子…だな」
「…え?」
振り向いた少年は、もうあどけない表情に戻っていた。
「いや…。…お前、名は何という?」
「ティーダ」
「…そうか、…俺はアーロン」
「あーろん?」
「そうだ。…これからは、時々お前に…会いに来る」
「ときどき?」
「ああ、…覚えておけ」
「…うん」
少年は、少しだけ笑った。
「こっちだよ…」
再び、俺の手をひいて歩き出す。さっきより、力強く俺をひっぱる。
…唯一、父親を憎む気持ちだけが、今のお前を支えているのなら……それでもいい。
いつかお前が、自分の力で運命を切り拓き、自分の力で立てるようになった時…
すべてを話してやろう。
ジェクトはお前を愛していたと。…誰よりも…愛していたと…。

FIN


イラスト&文…慈音=玲音
くまの湯・http://www2.plala.or.jp/kumanoyu/