〜マカラーニャの森にて

―キスなんて…あいさつみたいなものだと思っていた…。

 子供の頃は、人と会うのが…あまり好きじゃなかった。
「ジェクトの息子だ」って、言われるの…すごくイヤだったからだ。
 でも、ひとりでいるのは、もっとイヤだった。
「ジェクトの息子だ」って言われるのが、あんなにイヤだったのに…ブリッツボールを始めたのは、
大勢の人の中に…いたかったからかも…しれない…。
 ブリッツボールを始めて、俺はずいぶん変わった。…シュートをきめるたびに、自信がついていった。
……人と会うのが…イヤじゃなくなった。

 ある日、出掛けようとすると、家の前に2、3人の女の子達がいて、
「ファンなんです」ってプレゼントもらったりしたけど…なんだか照れくさくて…嬉しかった。


―キスなんて…2度としたくないって思っていた…。

 7歳の時、父さんが死んで、私はキマリと一緒にビサイドに来たんだよね。
…ベベルに比べて、のどかなビサイドが…私すぐに気に入った。
 ルールーやワッカと仲良くなって、のびのびと育ってこれたと思う…。

 召喚士になると決める前までは、わりと普通に暮らしていた。
…もちろん、恋にも憧れていた。…ルールーには彼がいたし…手をつないで歩く恋人達を見ると、
ああいうの、いいな…って思っていた。
 だけど、召喚士になると決めてからは、そういうことも…あきらめていた…。
…ふふっ…ルールーにワッカ…さらにキマリがいつもそばにいて、私を守ってくれてたから
あんまり、男の人が近寄ってくることはなかったんだ…。


 ブリッツボールの選手達は…すごく、モテるんだ。
…俺も、エースになってからは…なんつーか、けっこうモテて、試合のあとは
いろんな女の子達と遊びに行ったりしていた。
…本当は、ひとりぼっちのあの家に…帰りたくなかったからかもしれない…。

 …照れくさくて…嬉しかった…
いつのまにか、そういう気持ち…麻痺してたんだ。
ならんで歩く女の子の肩や腰に手をまわすとか、腕を組んで歩くとか、
女の子達にキャーキャー言われる事にも、慣れちゃってた気がする…。

…朝方までパーっとさわいで、…ホントに…ごく、たまにだけど…一緒に…
ベットに入ることも…あった。……だから…
…キスなんて…あいさつみたいなものだと思っていた…。


 …キミと初めて会ったのは、ビサイドの寺院。…私が、正式に召喚士になった夜。
掟を破って、試練の間に入ってしまったんだよね。
 あとでワッカから聞いたよ。奥から戻らない私を心配して、試練の間に飛び込んで行ったって…。
……ふふっ…会ったこともなかったのにね。
今思えば、キミのそういう所が…何かを変えてくれるかも…しれないんだね。
 ルールーは「彼は言ってることが変だから、あんまり口をきいちゃだめ」って言ってたけど、
私…気づいてた。キミは本当に、私達の知らないザナルカンドから来たんだってこと。
時々…ものすごく淋しい顔してたこと…。


 ユウナは、今まで俺の周りにはいなかったタイプだ…。
ワッカが、「かわいいだろ?」って言ってたけど、ホントに清純な、田舎育ちのお嬢さん…って感じだったな。
 ガードになってくれ、とか、そばにいるだけでもいい、とか言われたけど…最初はピンとこなくて…
…それより、ザナルカンドに帰れるかどうかの方が、俺には重要だった。
 
 ユウナは時々…なにか強い意志を持ったまなざしで俺を見る。
なんだか、ザナルカンドにいた時の、チャラチャラした俺を…見透かされているような気がして…
…ユウナと目を合わせるの……恥ずかしかった…。


 …キミは、都会のにおいがするね。
ブリッツボールの選手といえば、きっと…人気者なんだろうね。
…女の子にも…モテるの…かな…。…向こうでは恋人…いたの…かな…。
そんなことが、気になったりした…。腹が立ったりした…。…悲しくなったり…した。
大事な旅の途中なのに…なんか、私…変だった。

 シーモア老師を、異界に送ろうと思った。
老師と結婚する…と言えば、グアドは油断すると思った。
…でも、私……甘かった。…未熟だった。………くやしかった。
 シーモア老師の唇は…氷のように冷たくて……私…2度と…キスはしたくないって…思った。


 俺はもう、スピラにいるしかないんだな…って思いはじめたころ、
シーモアとユウナの結婚の話が持ち上がった。
…みんなが反対しないのが、不思議だった。
…腹が立った。…納得いかなかった…。

ユウナは、なにか考えがあったみたいだったけど、やっぱり…イヤだった。
そうこうしているうちに、結婚式が始まっちゃって…
…いつわりの…結婚式だったけど…

…俺…自分の気持ちに…気がついた。
……ルールーに、忠告されてたんだけどな…。


 結局、シーモアを異界に送るのは失敗して、
ユウナは俺達の所に戻ってきた。

いろいろあったから、ユウナを元気づけるつもりだったんだけど…
……今夜は…ごめん。
…泣かすつもりじゃ…なかったのにな…。
あんな風に、声を出して泣くユウナ…初めてだった。

…気持ち…抑えられなかった…。


 シーモア老師との一件から、まるで洪水のように色々な事が押し寄せてきた…。
こんなはずじゃ…なかったのに。
 そんな私を…元気づけようとしてくれたんだよね。……なのに…
…今夜は…ごめんなさい。
泣くつもりじゃなかったの…。…メソメソした自分…好きじゃない…。
…でもね、私、本気で行きたいと思った…キミのザナルカンド…。…ううん、
どこでも…よかったの……ずっと、一緒に…いられるなら…。

 ユウナ…って優しく呼んでくれる…。
それは、召喚士のユウナじゃなくて…ブラスカ様のご息女のユウナ…でもなくて、
ふつうの、ひとりの女の子として……会って間もないころから…そう…呼んでくれてたね…。
そういう人…初めてだった。
 色々考えることはあるけど…今夜は…もう眠らなきゃ…。夜が明けたら…旅をつづける。
……でも、ついさっきまで、抱きしめられていたなんて…夢……見てたみたい…。
ううん…ハッキリと…触れた体温…覚えてる。
…キスなんて、2度としたくないって思ってた。…そんな気持ち……消してくれた。


 俺、絶対にユウナを守る。…死なせたりしない。
…その方法は、まだ見つからないけど…俺、考えるよ…。

 …でも…今夜は…もう眠らないと…。…夜が明けたら…旅はつづく…。
だけど、ついさっきまで…ユウナを抱きしめていたなんて…夢……見てたみたい…だな。
いや…まだ…触れた体温…残ってる。
…キスなんて…あいさつみたいなものだと思っていた…。…でも…違うんだ。

今夜は……眠れないよ…。
今夜は……眠れないな…。


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イラスト&文…慈音=玲音
くまの湯・http://www2.plala.or.jp/kumanoyu/