1.はじめに
食育基本法の制定に伴い、猫も杓子も「食育」という言葉を使うようになりました。「食育」の認知度も高まっているようです。
人々が食に関心をもち、もっと知りたい勉強したいと思うのは、とても良いことです。食に関心があって、学ぶ意欲のある人々を対象にいくつかの講座が開講されるようにもなってきました。そして、食育を冠に付けた資格を目にするようになりました。
ここで気をつけたいのは、「食育」の名前をつけた資格商法です。就職に有利であるとか、専門性が得られるなどの甘いキャッチコピーを鵜呑みにして、「そんなはずじゃなかった」と思う受講者が出るのではと心配しています。
まずは、「食育」資格を名乗る講座・資格を整理し、どこの何に注意すればよいのか、まとめていきたいと思います。
2.2007年4月現在で確認できる食育資格
1)食育指導士
食育指導士養成通信講座を行っています。実施主体は(株)日本フローラルアート東京カルチャーセンター。通信講座で使用するテキストは香友会が監修しています。
香友会とは、学校法人香川栄養学園 (女子栄養大学大学院・女子栄養大学・女子栄養大学短期大学部・香川栄養専門学校)の同窓会で1941年に創立されている組織です。
通信講座入会の費用は、2,500円×12回=30,000円(分割払いの場合)。
2)食育インストラクター
食育インストラクター通信講座を開催しているのは、服部幸應です。ホームページでは「先生の食育に対するこだわりと情熱、食育基本法の精神に基づいた食育指導者の養成講座です」と紹介しています。
受講料は、一括払いが39,900円。分割は3,500円×12=42,000円。
3)食育ソムリエ
JA総合研究所が行う通信教育講座です。ファーマーズマーケット(FM)の従業員・パートを対象としています。受講料金は一人7万円(FM戦略研究会員の従業員は一人5万円)。
雑穀ソムリエ(日本雑穀協会)といい、野菜ソムリエ(ベジタブル&フルーツマイスター協会)といい、生産団体関係は「ソムリエ」という言葉が気に入っているようです。
4)食育スペシャリスト
ヒューマンアカデミー主催の講座です。入学金が21,000円、授業料はコースによって異なりますが、12回分で94,500円、17,000円などです。教材費は別。食育スペシャリスト認定試験を受けて、基準点に達すると、NPO法人みんなの食育から食育スペシャリストとして認定されます。
5)食育コーディネーター
NPO法人食環境コーディネート協会が認定資格として「フードビジネスコーディネーター」と合わせて作った資格です。家庭、学校、行政、NPO法人食環境コーディネート協会として連携して「食育」をいろいろな方法で開催していき、将来的には専門職として活躍できる場を形成していくことをうたっています。
認定試験を受験、合格すると、登録手続きにより「食育コーディネーター」の資格が認定されます。受験料は10,000円(一般)、5,000円(会員)、認定登録料は20,000円(一般)、10,000円(会員)。資格の有効期間(5年間)があり、更新料として5,000円が必要です。認定試験は、公認テキストから出題され、テキスト代は1,000円です。
ちなみに、NPO法人食環境コーディネート協会の正会員になるには、入会金10,000円、年会費10,000円が必要です。
これらに共通していることは、@すべてが民間資格であること、Aテキスト代、授業料、認定試験の受験料、登録料と多様な経費がかかること、B有名人の顔やNPO法人が見え隠れしていること、C資格をとることが有意義だと強調していることです。
3.すべてが民間資格であること
資格は、民間資格と国家資格、その中間である公的資格の3つに分類できます。食に関する国家資格の代表例は、栄養士、管理栄養士、調理師などです。
食育指導士、食育インストラクター、食育ソムリエ、食育スペシャリスト、食育コーディネーター、いずれも民間資格です。
民間資格とは、民間団体や企業が独自の審査基準を設けて任意で与える資格のことで、法規制がありません。一定の能力担保がされていると認知できる資格もあります。しかし、「資格商法」として問題のある資格、社会的評価を受けられるとは到底思えない資格も多く存在しています。
4.多様な名目で経費がかかること
よくもまあここまで考えたねと感心するくらい、いろいろな経費がかかるようです。通信講座の場合はテキスト代です。NPO法人が認定資格で関係する場合は、その入会金、年会費などです。さらに、資格の更新料まで設定しているものもあります。
NPO法人食環境コーディネート協会の食育コーディネーターは、テキスト代として1,000円が必要ですが、他で別の経費がかかるしくみになっています。
(食育指導士の場合)
28,700円を振り込む(一括払いの金額)と、以下の教材が送られてきます。テキスト5冊(「食育入門」、「家庭の食育」、「食育で作る健康な心と体」、「楽しく覚える調理の基本」、「地域での食育活動」)と別冊キーワード辞典、ガイドブック、添削課題、指導用紙綴、付録として「食育かるた」。
5.有名人の顔が見えたり、NPO法人を名乗ったり、学校法人が関係していること
(食育指導士の場合)
食育指導士の実施主体は(株)日本フローラルアート東京カルチャーセンターですが、通信講座で使用するテキストは香友会が監修しています。香友会とは、学校法人香川栄養学園 の同窓会で、女子栄養大学の支援を受けていると想像できます。
(食育インストラクターの場合)
服部幸應が全面に出ているのは、食育インストラクターです。ホームページより講座概要を引用すると以下の通り。
この養成講座は、服部幸應先生が長年、提唱してきた食育の基本理念「食品を見分ける選食力」「食のマナー」「世界的視野にたった食育実践法」を3本の柱とした教材構成で、子どもから大人まで大変わかりやすく、毎日の暮らしにすぐに役立つ「食育」の知識が自宅で学べます。
栄養教諭、養護士、家庭科教諭、栄養士、管理栄養士、また専門調理師、調理師、家庭料理学校の先生方をはじめ青少年犯罪のカウンセリングを必要とする方など、さらに子どもたちに正しい食生活を教えたいというお母さんはもちろん、その分野の指導者の道を志す方に最適です。
講座修了後には、全国料理学校協会を母体とし、服部幸應先生が理事長を務める「NPO食育インストラクター協会」から「NPO日本食育インストラクターprimary」として正式に認定されます。
(食育コーディネーターの場合)
NPO法人食環境コーディネート協会 の「委員会事務局」は、学校法人誠心学園内にあります。誠心学園とは、調理師専門学校、製菓専門学校を運営している学校法人です。
6.私の見解
「この料理まずいですよ」と売り込むレストランがないように、「この資格、意味ないですよ」と言って売り込む主催者はいません。資格をとることが有意義だと強調するのは、当然の行為です。ただし誇張する表現、受講者に誤解を与えるような表現は、要注意です。
たとえば、以下のような表現があります。
「食育の専門家は、これから教育機関や福祉施設はもとより、医療機関など様々な分野で必要とされるでしょう。速いうちに資格を取っておくことが就職への決め手になるかもしれません。」
「かもしれません」と書いてあるから、この表現はギリギリセーフです。
私は、現在認められる5つの食育資格が就職の決め手になるとは、まったく考えていません。主婦が再就職のために食育資格をとっても、実のところ役には立たないと、今のところ断言できます。国家資格である栄養士・管理栄養士でさえ、国家資格全体から見れば底辺層に位置している資格だからです。
食に関して学びたい意欲に水を差す気は毛頭ありません。「純粋に勉強したい」、「資格をとったからといってそれを生かす仕事に就こうとは思っていない」、「資格を得ることを目標に勉強をしたい」、そういう人には勉強のチャンスとして良いきっかけになるでしょう。
ただし、「深く勉強する手段は他にあったかも」、「ムダなお金だったかも」と思わないように、申し込む前に慎重に検討してほしいと思うのです。(2007年4月13日記)
食育資格商法にご用心!