「問われる食育と栄養士 学校給食から考える」講演要旨
(北教組学校栄養職員特別委員会主催、
200910月2日)

 本日の演題は、2006年に出版した本と同じタイトルです。本題に入る前に、朝日新聞に掲載された「異議あり」の取材裏話から話していきましょう。

 この記事が載り、思った以上の反応が寄せられました。ある人からは「誰か知っている記者がいたの?」とか「誰の紹介で?」と聞かれました。そのどちらでもありません。

 昨年(2008年)12月に、『問われる食育と栄養士 学校給食から考える』(筑波書房、2006年)を読んだ朝日新聞生活グループの記者からメールをもらいました。「今、食育特集を考えていて是非直接話を聞きたいので電話番号を教えてほしい」というものでした。

 電話を待っていたのですが、なかなかかかって来ず、もうその話は流れたのかなと思っておりましたら、年が明けてしばらくしてから電話があったのでした。

 直接会って食育の話を聞きたいという依頼です。こちらとしては言いたいことは活字にして本にまとめたわけですから、そのうえに何を語ればよいのか、多少の戸惑いがありました。

 わざわざ東京から札幌まで足を運んだのに聞きたいことは何も聞けなかった、では無駄足になってしまいます。どんな話を聞きたいのか事前にメールで教えてほしいとお願いしました。すると、何十項目にもわたって記者が疑問に思っている食育に関する質問がメールで送られて来たのです。

 3月のある日、札幌地下街の喫茶店で3時間以上もおしゃべりをしました。とても熱心な記者で食育についてもかなり深いところまで勉強していることが分かりました。専門的なマニアックな話に時間が経つのを忘れるほどでした。

 その記者から、「四月から少数意見を扱う新企画『異議あり』を予定していて、あらためてインタビューを受けてほしい」と別れ際にお願いされたのです。

 以下、講演内容は省略します。尚、当日配布した資料のうちレジュメ分2枚を以下に掲載します。

「問われる食育と栄養士 学校給食から考える」レジュメ

T 「食育」の背景と課題

U 学校栄養士・栄養教諭の役割

V アトピー等の子どもたちへの対応

T「食育」の背景と課題

1.食育基本法成立の経緯と背景(T章)

 食育基本法は、自民党、公明党、共産党の賛成のもと2005年6月に成立した。武部勤自民党幹事長(当時)が食育調査会会長であり、食育基本法成立直後の特命担当大臣は猪口邦子であった。小泉政権の生み出した基本法ともいえる。

→資料:表1 食育基本法制定までの動き、表2 食育関連予算

2.食育に関する論調

1)メディアの論調

 NHKをはじめ大マスコミの論調は食育推進に肯定的であった。食品産業、JAをはじめとする農業団体、スーパーなどの小売業も積極的に「食育」を取り上げた。

2)研究者の論調(Z章)

 食育研究においても、石塚左玄や村井弦斎の「徳育、知育、体育よりも食育が先」を引用し、批判的な論文はほとんどない。

3.問題の多い食事バランスガイド

 感性・感覚に訴える食事バランスガイドを無批判に受け入れて良いのか。

1)整合性のない、主食、副菜、主菜、牛乳・乳製品、果物という5種類の分け方

2)日本語軽視の「どれだけ」を示す「つ」という数え方

3)日本独自と言いながらもアメリカのマネ

→資料:フードガイド(仮称)検討委員名簿

4.食育の目標と今後の課題

1)数値目標の落とし穴

2)各都道府県・市町村の取り組み

3)地域の実態把握とそれに応じた目標設定

→資料:表3 食育推進基本計画における数値目標

表4 北海道食育推進行動計画の数値目標

U学校栄養士・栄養教諭の役割

1.栄養教諭創設の経緯(U章)

 2005年4月から栄養教諭の採用がスタートし、「食育推進の核」としてその役割が期待されている。そもそも栄養教諭とは何か。200412月に女子栄養大学で開講された集中講義録(『栄養教諭とはなにか』女子栄養大学出版部、2005年)から、その経緯を読み取ることができる。

→資料:表5 公立学校栄養教諭の配置状況

2.学校給食のとらえ方(X章)

 飢餓児童の救済から始まった戦後日本の学校給食は、栄養補給だけでなく食に関する教育の場としての役割も果たしてきている。また、その内容は全国画一的なものではなく地域性に富んだものである。

→資料:表6 自校方式とセンター方式の献立比較(2001年5月21日〜25日)

3.学校給食の献立の変化(V章)

 教材としての学校給食が注目されると同時に、アトピー等アレルギー児対応の給食も検討される時代になってきている。

→資料:図1 主食別献立数の構成比変化 表7 代表的献立例の変化

  図2 学校給食のねらい

Vアトピー等の子どもたちへの対応(W章)

食物アレルギーをもつ子どもたちへの対応は、栄養教諭の創設に際し、「個別的な相談指導が想定されるケース」の4番目に挙げられている。アレルギー対応食は、設備、予算、人の配置等の理由で地域、学校別で実施状況に差が出ている。

W学校栄養士に期待すること(W章、[章)

1.学校栄養士の強みを自覚すること

献立作成能力の緻密さとその応用力

2.歴史に学び、時代を理解すること

政策批判を含め、自分の頭で考える力

3.学問的根拠に基づいた自信をもつこと

日々の研鑽と正確に伝える表現力・文章力

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