これは、2006年9月30日に行った講演要旨です。主催は、網走管内ことばの教室親の会連絡協議会です。講演タイトルは、事務局担当である遠軽町立東小学校のM先生と相談して決めました。
 講演時間は質問時間を含めて90分。パワーポイントで作った資料を配付し、パワーポイントを使いながら進めました。また、人参、なす、カラーピーマンなど14種類の野菜を前日に買ってもっていきました。みなさんに実際に見てもらいながら、野菜の名前を当てたり、緑黄色野菜か淡色野菜かに分類するゲームに使いました。
 講演内容のエキスを紹介します。

1.考えることを忘れたマニュアル化した社会
 「いらっしゃいませ」「こんにちは」コンビニで聞かれるご挨拶です。「こちらでお召し上がりですか?お持ち帰りになりますか?」20個のハンバーガーを買っても、必ずこう聞かれます。おそらく持って帰って部活動の仲間と食べるんだなと確信しても、必ずマニュアル通りに聞くのです。
 マニュアルが作られるのは確かに便利です。しかし、想定外の出来事が発生したときに対応できない弱さがあります。状況に応じて自分の頭で考えてみる、そうした訓練が必要だと思うのです。食生活はマニュアル通りに進められるほど、そんなに単純ではありません。

2.食生活の問題を考える基準
 食生活の問題を考えるとき、「たんぱく質が足りないよ」と栄養素レベルで考える場合。「ごはんを食べよう」と食品・料理レベルで考える場合。「食料自給率を上げよう」と食料レベルで考える場合。大きくこの3つに分類されます。
 私たちが日常生活で考えるのは、「今日は家族みんながそろうから、手巻き寿司をつくろう」とか「給料日前だからお肉が牛肉よりも豚にしよう」とか「給食がカレーだったから夕食はカレー以外にしよう」とか「暑いし、手のこんだ料理を作るのイヤだなあ」とか思うわけです。
 家族の嗜好、適切な食費、調理の手間やもっている調理技術、食材料の入手条件などさまざまなことに考えをめぐらし、総合的に判断して、よし今晩のメニューはこれにしようって決めているのです。その場合、食品・料理レベルで考えることが多いのです。
 ですから、1日に何をどれくらい食べたよいかは、食品や料理で把握しておくと便利なのです。こうして、食品群の考え方が生まれました。

3.大事な基本的知識と調理の技術
 食品群についてはいろんな考え方があります。代表的なのは次の3つです。
●3色食品群
 幼児教育の場や学校給食で使用されることの多い分類のしかたです。
●4つの食品群
 香川式分類とも言われます。香川綾(1899〜1997)氏の考案したもので、乳・乳製品・卵をひとつの食品群に独立させています。
●6つの基礎食品
 厚生省(当時)が中心となって普及したもの。家庭科の教科書にも載っています。

 何をどれくらい食べればよいかを把握しておくことが大事です。これらの基本的知識(土台)がしっかりしていれば、へんな情報に惑わされたり、おかしなダイエット法にはまらなくてすむのです。
 そして、大事なのは調理の技術です。なぜ大事なのか。その理由は3つあります。ひとつ、自分で作ると美味しい!ふたつ、自分で作ると安全、安心!みっつ、自分で作ると安い!
 最近では「料理が脳を鍛える」研究も行われるようになりました(川島隆太『脳を鍛える大人の料理のドリル』くもん出版、2005年)。料理の大切さが見直されることは良いことです。

4.フードファディズムの問題
 フードファディズムという言葉があります。1950年代のアメリカで生まれた言葉です。フード(Food)は食品、ファディズム(Faddism)は物好きの意味ですが、日本語に置き換えるのはむずかしく、カタカナでフードファディズムと呼んでいます。
 高橋久仁子氏によれば、フードファディズムは「食べものが健康や病気に与える影響を誇大に評価したり信奉すること」です(高橋久仁子『「食べもの神話」の落とし穴』講談社、2003年、14頁)。
 「ココアはからだに良い」、「杜仲茶を飲めば痩せられる」、「赤ワインを飲めば長生きする」、「牛乳を飲めばがんになる」、「タマネギは血液をサラサラにする」、「オロナミンCを飲めば勇気が出る」など。どれもフードファディズムです。
 フードファディズムの問題は、「あれがダメ、これもダメ」、「それは良い、あれも良い」と言っているうちに、押さえるべきポイントが分からなくなります。「適切に食べるとはどういうことか」が判断できなくなってしまうのです。
 その結果、健康被害をもたらしたり、詐欺的商法にひっかかってしまうのです。

5.自分の頭で考えることが一番!
 さきに述べた基本的な知識を元にして、自分の頭で考えることが最も大事です。誰かが何か言ったらまず疑ってみること、「本当かなあ?」、「テレビのやらせじゃないの?」、「なんか売ろうとしているんじゃないの?」というように。
 ここで、自分の頭で考える訓練をひとつ、やってみましょう。好き嫌いをなくそう!の巻です。好き嫌いをなくそう!と言っている人は好き嫌いが悪いという前提をもっています。好き嫌いって悪いことなのでしょうか?
 私は好き嫌いはあって当たり前だと思っています。たとえば、この食べもの、あなたはお好きですか? 

●ブルーチーズ(青かびによって熟成を行うナチュラルチーズ)
●くさや(新鮮なムロアジ、トビウオなどを使用した干物の一種。伊豆諸島の特産。)
●ホビロン(孵化しかけたアヒルの卵、ベトナムではおやつとして食べられる。)

 食べものの好き嫌いがあるということは、食べものの種類をどれだけたくさん知っているかということでもあり、どれだけたくさんの料理方法を知っているかということでもあります。

6.まとめ
●テレビで言っていることやベストセラーの本に書いてあることを鵜呑みにしないこと。
●栄養や食品に関する基本的知識を土台にして応用を考えること。
●食べる食品の種類をふやし、料理のレパートリーを広げることで食事はより豊かになること。

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自分の頭で考える食生活の問題