夢の消えぬ間に 八

常経が館に戻ると奥から従が飛び出してきた。
「ああ、常経様。何処に行っておられたのです」
「申の刻には未だみときほどあるが?」
申の刻には戻ると朝方家の者には言ってあったはずだ。
「それはそうですけど、行先くらい言っておいてもらえませんと、緊急のときに連絡のとりようがないじゃないですかー」
「それは…」
すまないとしか言えなかった。少納言は権欲が強く日頃からそれをあからさまに出す人なので家の者は少納言と付合いを持つ事を嫌っていた。
「それで、何の用なのだ?」
誤魔化し半分で先を促す。
[はい、右大臣様がお見えです。
右大臣?
また何の用なのだ、あの人は

客間に入ると右大臣が既にくつろいだ様子だった。
この客間も右大臣の来訪を聞き慌てて取り繕ったのだろう。いつもは見られない代物がそこかしこに置かれていた。
「おお、常経来たか」
右大臣は大仰に招いてみせる。
「何の用です?」
取り敢えず右大臣の前に座る。
「ああ…その」
右大臣は言いにくそうに口篭もる。
辛抱強く待つのは常経の得意とするところ、けして急かすような事はいない。
「あのな、今回はお前を養子にしようと思ってな。もう、良経殿にも了承を得た」
「はあ?」
驚き半分、呆れが半分である。
「ほら、私には跡継ぎらしい跡継ぎがいないだろう。それで、跡継ぎとして常経を迎えたところで何の不思議も無いと思うのだ」
いずれ言い出す可能性は考えにあった。
しかし、仮にも右大臣。状況を考えれば押しとめておかなければならない希望である。
眼前にいる右大臣は内裏で見せる荘厳な姿はなく、ただ常経の返答を恐る恐る待っている様子であった。
「右大臣様。私があなたの甥でありながら兵部の守でおさまっている理由をお忘れですか?」
膝を正し、礼を尽くした臣下の口調で常経は右大臣を見据える。
右大臣はそれを目を細め、悲しそうな面で受け止めたが急に口調を改めた。
「そなたの父母の身分の事は問題にはならない。
確かにこの事は一族の繁栄に影をさすやもしれん。だが、常経の才を持ってすれば盛り返すのも造作もないこと。
これは右大臣であり一条家を束ねる私の判断だ」
父である良経は、身分の低い女から生まれ右大臣の弟とは言ってもその地位は低い。
一方母も身分の低い女であった。
身分がものを言う時代。出世するといってもたかが知れていた。(まあ少納言からすれば十分といえる身分にはなれるのだが…)
出世には興味のない常経だったが、右大臣の命には逆らうことは出来ない。
沈黙は了承の証。
それを見取ると右大臣は腰を上げた。
「母上に会っていかれないのですか?」
常経の母。名を加江と言った。
障子を開けた姿勢のまま立ち止まり、右大臣は常経の背を振り返る。
「今更だ」
諦めの色を残して右大臣は部屋を後にした。



……さて、
『2・3日中には更新できると思うんだな』はい、大嘘付やろうです。はい
2・3日が1年になりました。
それもこれも1年前に「ファンタスティックフォーチュン」なるゲームが発売されたせい…
この創作がオリジナルサイトのオリジナル創作を遥かに凌駕する数になりました。
多分これからもファンタの活動は続くでしょう。
でもここはオリジナルのサイトだ(心の叫び)