夢の消えぬ間に 四

鬼を追って屋敷づたいの角を右に折れた。
そこで、常経の足が止まった。
鬼を見失ったのだ。
後ろから家人達も追いついて来た。
そこが館の一番北だと思っていたが、そこから内へ向かって斜めに細い廊が続いている。死角になっていたのだ。
家人に松明を借り、奥の方へ今度は辺りを伺いながら慎重に足を進める。
やがて視線の先に小さな離れを見つけたとき、不意に真横の渡殿に人の気配を感じた。
「誰だ。」
振り返ると一人の女人が座っていた。
ふと、鬼が化けたかと思った。鬼の一人がそれは美しい女人に化けると言う話を聞いたことがある。
それというのも、その女人は荘厳華麗な御所でも見たことがないほど美しい姿をしていた。
一瞬、物も忘れて見とれていた。
すぐ我に返ったが、女人が逃げる様子がないので太刀を納めた。
「あなたは鬼か?」
その問いに女人が首を振る。
家人の一人が慌てて女人は少納言の孫、嵩姫だと教えてくれた。
「では、鬼をみませんでしたか。緋の着物を着たのと薄青い着物を着たのを。」
姫は少し首を傾げて、それから小さく頷いた。
では何処へと聞くより先に姫はすっと庭を指さした。
姫が指したのは、今より少し手前の築地だった。切り取られたまま野ざらしの切り株がちょうど台のようになって登りやすくなっている。
家人が皆すぐさま鬼を追って行ったが、常経はもう追っても無駄だろうとその場に残った。
姫を一人残していくのも気が咎め、かといってこんな真夜中に部屋まで送るのも躊躇われ、 考えあぐねていたところ嵩姫の方が「帰らないの?」と話しかけてきた。
答えかねていると。
「では、部屋まで送って下さい。」
と、離れを指さした。
常経は少し戸惑ったが、喜んで姫の手を取った。

***

常経と嵩姫の立ち去った渡殿。
常経がいた築地の方とは逆の、内庭の茂みから二つの陰が出てきた。
「あの姫は。」
緋の鬼が問う。
蒼い鬼は答えない。