夢の消えぬ間に 参

嵩姫はあの時、鬼から渡された鬼の面をこっそり床下に隠し、それまでと変わらない日々を過ごしていた。

−二年後−

庭の銀杏も金に染まり、夏の空気も薄れ始める頃。
嵩姫は再び渡殿に腰掛けて更けゆく夜に浮かぶ月を眺めていた。
今宵の月は満月で、紅く大きい月が空をうめていた。

突然、母屋の方が騒がしくなった。
悲鳴。
人の怒鳴る声。
嵩姫は気分をそがれ部屋に戻ろうと腰を持ち上げた。


「居たぞ。」
言うが早いか常経は、太刀を抜き鬼に斬りかかった。

今宵、鬼は少納言の館に現れた。
兵部の守である常経(つねたつ)は、たまたま御所での務めの帰り少納言に誘われて、この館で馳走になっていた。
常経は右大臣の甥であり、右大臣からも特に目をかけられ将来の地位も約束されたも同然の男である。
少納言は常経に取り入ろうとしつこくつきまとっていた。
常経も知ってか知らずか、何かにつけて誘ってくる少納言をそう無下には出来ず今日館に招かれたのだ。
早々に帰ろうと思っていたのだが、少納言の方もせっかく館に招いたのだからと、数いる娘を順番に紹介したり家宝の剣を みせたりと何とか常 経を返さまいとする。
そうこうするうちに夜も更け、流石にもう帰ると引き留める少納言を押し切って館の外に出た矢先、鬼が出たと家人の声が聞こえた。
そして逃げる黄の鬼を見つけたのだ。

手応えがあった。見ると鬼は右肩を押さえ常経に太刀を向けたまま、じりじりとあとづさっている。
鬼の着ていた着物が黄色い色からみるみる朱に染まる。
太刀を持ち直しもう一度鬼に斬りかかる。
「硫黄」
誰かを呼ぶ声が聞こえ、甲高い、太刀特有の音が響いた。
自分の太刀を受け止めたのは緋い着物を着た鬼だった。
「ここは任せて早く逃げろ。」
硫黄と呼ばれた鬼を後ろに庇い、再び打ち返す。そのまま二、三度切り結ぶ。
硫黄の方は少し躊躇ったが、すぐにきびすを返した。
「鬼。何故悪事を重ねる。」
力で鬼の太刀を跳ね返し、左から払う。鬼はおそるべき跳力でそれをかわし、そのまま上から打ってくる。
「捜しものをしている。」
何を、と訊ねようとしたが、そこに駆けつけてきた家人が鬼を取り囲んだ。
「お怪我はありませんか常経様。」
肝心のところで邪魔をさたのを少し苦々しく思いながら、大事ないと答える。
鬼は完全に包囲されていた。
ひとまづ太刀を納め、ここは家人達に任せようと、その場を離れようと後ろを向いたその瞬間。何人かの家人が呻きをあげて倒れた。
「こっちだ萌葱。」
蒼い鬼が刀に血を滴らせながら立っていた。間髪入れずに緋の鬼が走る。
「追え。」
鬼は逃げる。北へ。
北へ。