化生

はて、おかしな事を言う。私は化生ではありませんよ。
化生とは"化ける"者の事でしょう。その点私は化ける事は致しません。
ずっと変わらない、そういう存在なのです。
そういう事ならあなた方人間の方が畏らく変化というのに相応しいのではありませんか?日々の生活に姿形を変えていらっしゃる。
いや違う?
なぜ?
変化はしていない?何をおっしゃいます。
では、お聞きしますが。あなたは生れ落ちた時からその姿だったんですか?
でしょう?納得していただけましたか。
それでも違うと?
ほう、変化とは自らの意思で変わるというのですね、あなたは。
それはおかしなはなしですね。
人間は望んで変わっているのではないのですか?そんな事はしていないと仰る。
例えばですよ。背の高くなりたい男が居たとしましょう。
この男は変化しています。
…まあまあ最後までお聞きください。
男は若い間はそりゃ伸びます。もちろん変化は自分の理想に完璧に添う物ではありません。これはいいですね。それでも男は変化します。
これが、年を取ってくるとどうなります。
はい。伸びるのは止まります。見た目はですね。
ええ、小さくなりますがそれでも変化しているのですよ。
これが、そのうち縮んでくる。
変化を望んで真逆ですが変化しています。
そして死。
それも変化。
え、詭弁だと仰いますか。
それでもね、私どもからすれば目まぐるしい変化をしているのですけどもね。
本当に望んでいなければ止まってしまえばいいのに、それをしない。それは意思でしょう。
まあ、いいでしょう。
話はそんな事ではありませんでした。
要は人間が化生と呼んでいる存在をお探しなのでしたね。
はい。先程も言いましたが私は違います。"化け物"には違いありませんが。
この場合人に非ず者という意味ですよ。化ける者ではありません。
はい。何と名前が付いているのかは知りません。
この世に現れた時からこの姿で、消える時も変わりません。
知識も性格も変わることなく、只、ふらりと現れて、ふらりと消えるだけなのです。

唯一の変化といえば現れる事と消える事。それすら自分の意志ではないですから。
それに疑問を感じなさいますな。私にも良く分からないのですから。
ある日ふと意識があったことに気が付く。消える瞬間は、やったことないので分かりません。
はい。他の者のそういう場にも居合わせた事はないのです。
それに先程まであなたは私のような存在を知らなかったでしょう。我々が化生程には数が多くないからですよ。存在を知る者が少なく、人の口端に上らない。
面白いですね。あなたは化生を探しているのに、絶対的に数の少ない私に会ってしまうなんて。
あるいは、そんなものかもしれませんね、運命なんて。
さて、長く話し込んでしまいましたね。
私はあなたのお役に立てそうにもありません。化生の事、多少なりとも知っていれば助言も出来たでしょうけれど、もう永い事ここを離れた事が無いので知らないのですよ。
もうお行きなさい。



そうして、私と話していた人間の少年は。去り際におずおずといった様子で、ありがとう陽炎と言った。
それは私という存在を指してなのか、私そのものを指しているのか分からなかった。

そうして思い出した事は。
自分には名を呼ぶ者どころか、名を付ける者もなかったのだと。


人と待ち合わせしている間に書いたもの。
あんまり考えずに書いたため、きっと後から後悔するはめになるのでしょう。

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