植木鉢



手渡された鉢。
当然の様に手の中に。
託した少女は、悪戯っ子の笑みを浮かべる。

「なんだコレは?」
メイはいつもながら唐突だ。帰ってくるなり何の前置きもなしに植木鉢をキールの前に置いた。
そもそも彼女は昨日までダリスに戦争というなの大役を担いに行っていた筈だ。彼女に課せられた使命を果たし、無事戦争を回避できたくだりは聞いていた。
それで帰ってきたかと思えばこれである。
「えへへ。何だと思う?」
メイは勿体ぶって答えを言わない。そのままちゃんと見てみてとでも言うように鉢の中を指差す。
若葉にしては色の濃い、その他は何の変哲も無い只の芽に見える。
メイは一向にそれ以上口にするつもりはないらしい。仕方なく、キールは自分の感じたままを言う事にする。
「ただの若葉に見えるが?」
「かー。駄目じゃん。これはねえ大樹の若葉だよ」
こころなしか胸を反らせてメイは答えを言った。
「……」
「――だよ」
「……で?」
それに対してのキールの反応は芳しくない。いつも通りといえばいつも通りの様子ではある。
「うそ。もっと驚いてくれると思ってたのに。キール冷たい。コレじゃああの子も浮かばれないよね」
等と植木鉢に話し掛ける様に言った。
あの子。
その言葉にキールは僅かばかり心を動かされた。
金の髪の少女。メイはきっと彼女の事を言っているのだろう。少女と大樹の関係。全てを終えて消えたくだりまではキールも聞いていた。
「苦労して探したんだから。ちゃんと世話してよね」
「って、俺がか?」
「あったりまえ。シオンが持っていきそうになるの必死で止めたんだから。アリサはキールに懐いて居たんだからそれが一番喜ぶと思うよ」
少なくともキールの都合などは考慮されていないのだろう。鉢を半ば強引にキールに持たせてメイは満足げに笑う。
「あ、育て方とか分からない事があったらシオンに聞いてよね、結構はりきってたから懇切丁寧に教えてくれると思うよ」
シオン様に――それはかなり嫌だな。頼み事を引き受けると見せかけて何かと遊ばれるのは目に見えている。
しかしながら、他に園芸に詳しい人物を知らないのも事実だ。
「若しかしたらね。上手く育てたら又アリサが出てこれるかも知れないって」
それはおおよそ荒唐無稽な話。
「それもシオン様が?」
「違う。私の勘」
キールはマジマジとメイの顔を覗きこんだ。そこにはふざけた気配は感じないが。
「あてにならないな。それは」
深々と息をこぼすキールに、メイは怒りの鉄拳を食らわせた。

かくして植木鉢に毎朝水を遣るキールが見られたとか見られないとか。



アンヘル収穫祭に出したぶつです。
同人で出した「芽吹くもの」の続きだったりします。