茶番劇〜世界は逆転の運命を辿る〜

世界は逆転の運命を辿る 8(後)



ターンで店主が食器も拭き終わり、暇なので店内中の掃除をし、なおかつ外の掃き掃除も始めたころ。
「え〜ん。居ませんわ」
ディアーナたちは未だアイシュを探していた。
最初のころこそ研究院の周辺を探したり、院に戻って帰っていないかを確かめたりしていたが、埒があかないので広場の近くまで範囲を伸ばしてみた。
いったい何処へ行ったんでしょうね(笑)
メイと時間を示しあわせ、次に神殿の鐘が鳴ったら一旦院の方に戻ることになっている。
流石にメイもこの国の王女をアイシュの捜索ごときに付合わせられないと行ったのだが、ディアーナの方は聞く耳持たずで自分も探すといって聞かなかった。
もうすぐで鐘が鳴る。
メイと約束したのだ。この次の鐘が鳴ったら一旦院に戻りそれでアイシュが見つかっていなくともディアーナの方は王宮に戻ると、
それ以上は王宮にいらっしゃる少しばかり過保護な皇太子殿下も心配なさるし、第一王女にそんなことをさせていたなんて知れたらメイにお咎めが掛かる。
メイの訴えは、ほんと〜〜に尤もだったのでディアーナは最初の我が侭だけで諦めたのだ。
だから鐘が鳴るまでにはアイシュを見つけたいのだ。

花屋と果物屋を抜ける通り、違和感を覚える声を聞いた感じがしてディアーナは足を止めた。
あまり大きな声ではなかったが、通りとは反対から聞こえた気がして違和感を覚えたのだと、建物と建物の間に人が通れる程の隙間を見つけてそう思い至る。
多分ここから聞こえたのだ。と、ディアーナは隙間に顔を覗かせようとする。
『は!こんな事をしている場合ではありませんわ。アイシュを探しませんと…』
そう思い一旦は体を反転させたが、どうも気になってしまう。
どうしてこんな細い路地から声が聞こえるのかしら?
考えれば考えるほど不穏な理由しか思い付かない。
アイシュも大事なのだが、王女としては一般市民も見過ごせない。
「ふーー。仕方ありませんわね」
諦めてもう一度踵を返した。

路地では案の定、か弱い一般市民が数人の男たちに囲まれていた。
『あ、案の定ではわりませんわ。私はただ狭い路地ですから挟まって動けなくなった人が助けを求めているものとばかり』
そうは言っても後の祭りである。
しかしこの場合ディアーナに出来ることは何もない。騎士団に所属している面々ならば兎も角。
やっぱり踵を返してこの場を収められる者を呼びに行こうとした矢先、男の一人に見つかってしまった。
「あん?なんだ。見てんじゃねーよ、ねーちゃん」
不敬罪。万死に値する。
この場に彼女の兄が居たら即切り捨てられているところだ。運が良かったな、君たち
男につられて他の者達もディアーナに気づき、凄んでみせる。
だが、こうゆう風に言われて大人しく引き下がるほど、ディアーナの回路は安穏と作られていない。
問題大有りだな。いったいどうゆう王女教育を受けているんだ。
「何をしていますのあなた達。今すぐにおやめなさい」
沈黙。そして爆笑。
「『なにをなさいますの』だってさ」
「『おやめなさい。』だって。で、止めなければどうするつもりだい?オジョウサマ」
お嬢様という単語を使ってはいるものの、馬鹿にしているのは一目瞭然だ。
さあ?どうするかなんて私が知りたいですわ。
答えられないディアーナに男達が更に迫ってくる。
「どうれ、こちらのオジョウサマにも恵んでもらいましょうか」
「そりゃいいや。」
良くないですわ!!!
「!!!!!!!」
後ろからディアーナの肩をすかし魔法が空を切った。
その魔法は男達の何人かを捕らえ気絶させるに至る。
皆の動きが一瞬止まったが、場慣れしているのか男達は身の危険を察知し慌てて退散した。
「大丈夫ですか〜。ディアーナ様」
魔法を放ったのはディアーナが必死に探していたアイシュその人であった。


「で、ターンに行かずに何処をほっつき歩いてたの」
門限までもう少しあるため、もう出来立てではなくなってしまっているケーキをほお張りながらメイはアイシュに聞いた。
アイシュは申し訳なさそうに頭をかく。
「すいませ〜ん。
 じつは、研究院を出ましたら迷子の女の子がいましてねぇ、ほっとく訳にもいかず〜家まで送ろうと思ったんですが、
 その子も家が分からないと言うんで、一緒に探していたんです」
ずる。
メイが椅子からずり落ちた音である。
「…女の子の家は見つかりましたの?」
ディアーナも少しうろたえている様子だ。
「はい。ちょっと、王都の外れまで行きましたが、何とか見つかりましたよ〜。
 あはははは、その帰りだったんですけれす。
 すいませんね〜。遅くなってしまいまして」
因みに研究院から王都の外れまでというと…結構、距離があったりする。
ばか…
お人好しですわね。
それに対する意見は別れてしまったようだ。

そして、食べきれなかったケーキをメイとディアーナで均等に分けてお持ち帰り。
今回出番の無かったキールはケーキにも縁が無かった。



シルフィス×アイシュのネタをここに下ろしてしまいました。
当初はアイシュが男達に絡まれるという情けない設定で前編をかいてたのですが、
それでは見せ場が…ってゆーか絶対惚れないというんで変更です。