茶番劇〜世界は逆転の運命を辿る〜

世界は逆転の運命を辿る 7(前)



きーー
少し乾いたような音を立てて扉が開けられる。
少し前まで倉庫として使われていたそこは部屋として使うには少し広めで、
だからこそ二人を押し込めて使わせているのだが……
「おおい」
先程ノックはしたのだが返事はなかった。
今日は平日でこの部屋は二人で使っている。どちらも留守のは可能性が低い。
メイが二人いるなら話しは別だが(笑)
聞こえないのかな?とか、返事できない状況なのかも等と思って中の様子をうかがっているわけだ。
「あら?メイでしたの。二人ならいませんわよ」
まるで何もなかったかのようにディアーナが声をかける。
ああ、なるほど
どうやら二人は居ないらしく部屋にはディアーナのみが腰掛けている。
王女という立場上、メイ以外の人間に見られたら外聞が悪いと判断したから先程は返事をしなかったのだろう。
そこまでして何故居るか?という突っ込みは置いておいて、メイはディアーナの方に再び目を向ける。
机の前にはチーズケーキがどんとその居を構えている。
「あれ?アイシュは何処に行ったの?」
それだけでつい今し方までアイシュが居た事がわかるらしい。
探しにきたのはキールだったのだが、思わずメイはそう聞いた。
「あ、アイシュでしたらお茶を切らしたとかおっしゃって、今買いに出たところですのよ」
うん、ケーキにお茶は必要ね。
帰ってきたら一緒に食べましょうと言おうとしてディアーナはメイの顔が引きつっているのに気がついた。
「一人で?」
「ええ」
わけが分からないままメイの質問に答える。
「ああああああ…」
と頭を抱えるメイ。
「どうなさったのですの?」
「……アイシュが外に出て無事に帰れると思う?」
「なにを大袈裟な。お茶の売っているお店はすぐそこですのよ」
「この間。研究院の目の前にある、院御用達の文具店に紙を買いに行くのに半日掛かって、しかもボロボロになって帰ってきていた。(ぼそっ)」
「まさか」
ディアーナはそう言ったがメイの目は真剣だ。
「ほんとう…ですの?」
こっくり
うなずくメイ。
「だからアイシュが買い物に出ようとするときは私かキールが何かと用事を見つけて一緒に行くようにしてたの」
…よくもまあ、東京という大都会で19年間も生きて来れたな。
「大変ですわ」
真っ青になったディアーナが部屋を飛び出した。メイもそれに続く。勿論アイシュを探しに行くのだ。
どうでも良いが、滅茶苦茶情けないな、アイシュ

研究院から真っ直ぐ500m。
徒歩8分の場所にある。紅茶専門店「ターン」。
本来は喫茶店であるがご主人の趣味で茶葉からティーカップに至るまで、ありとあらゆるお茶の道具が揃う店である。
主人には娘が居るのだが、今日は広場まで吟遊詩人の音楽を聴きに行っているらしい。
全く、店の手伝いもしないでふらふらと…
どうやら娘さんは追っかけをしているらいいのね。
主人は洗い終わった食器を黙々と拭いていく。
がらっ
勢いよく戸が開いた。
娘だろうと思い主人は顔を上げる。
「おじさん。ここに髪の毛こんくらいで後ろで一つに縛ってて 分厚いめがね掛けてて 見るからに鈍そうな奴来なかった?」
メイ…酷い言いようだな。
あまりの剣幕に主人は呆気に取られている。
「ご存知ないかしら…」
後ろからやってきた桜色の髪の女の子に再度聞かれて主人はようやく首を横に振る。
「ど、どうしましょう。メイ、やはり来てませんのね。」
女の子は青ざめてメイと呼んだもう一人の子をすがるように振り替える。
「…探しに行くしかないでしょう。おじさんありがとうね。」
二人は揃ってお辞儀をすると来たときと同様、慌ただしく出ていった。
カチャ……キュッキュ
暫く扉のほうを見つめていた主人は、また作業に戻ったようだ。
…最近の若い者は騒々しいな。
キュキュ



また、勝手にお店を作ってしまったかもしれない。
店主はやもめなのかな?