茨姫 | シルフィス
| 13番目の魔女 | ミリエール
| |
屋根裏に出た時ひっそりとした音が聞こえた。 (なんだろう?) 茨姫〔シルフィス〕は音に誘われるまま首を巡らせ正体を探る。 カラカラカラカラ…。 はたしていつからそこに居たのか一人の老婆〔ミリエール〕が座り込み盛んに何かを回していた。 久しぶりに見知らぬ人間に会った。父王からは「知らない人に付いて行ってはいけません。飴玉くれる人はもってのほか」と厳命されていたが、ここは敷地内きっと多分恐らく大丈夫だろう。…要するに好奇心が勝ったのだ。 「何をしているんですか?」 「見ればわかるでしょ。糸を紡いでるのよ。」 つんけんした物言いに茨姫〔シルフィス〕は戸惑う。 「忙しかったんですね。すいませんお邪魔しました。」 慌てた老婆〔ミリエール〕が茨姫〔シルフィス〕のドレスの裾をひっしと掴み、行く手を遮った。 「ちょっと、どうしてそうなるの。待ちなさいよ。」 「はあ。」 どうやら勘違いだったらしい。ではどうしてそう冷たい言い方をするのかは置いといて、先ずは老婆〔ミリエール〕の主張を聞こう。 カラカラカラカラ…。 何か言うものと思ったのだが、老婆〔ミリエール〕はそのまま糸を紡ぐ作業に戻ってしまった。 「え〜と…。これは何ですか?」 老婆〔ミリエール〕の回している物を指差し手持ち無沙汰になったシルフィスは質問してみた。 「あらいやだ。あなた糸車も知らないの?」 嘲りを浮かべた口元に手を当て、斜め四十五度から見下ろす角度で老婆〔ミリエール〕は答えた。 座っているのに器用な人だ。 「まあ、仕方ないかもしれないわね。あなたのお父様が全て燃やしてしまったんですもの。やる事が極端でいけないわ。おかげで探すの苦労しちゃったじゃない。」 「それはすいません。」 「ついでに言っておくけれど、糸車は繊維を縒って糸にする道具ですからね。」 別に聞いてはない事だったが勉強にはなった。もう少しよく見てみようと茨姫〔シルフィス〕が近寄る。 ざっ。 物音一つで針が空を掻く。木製といえども先の尖った物だ。刺されば痛いどころででは済まないそれを、紙一重で茨姫〔シルフィス〕は避けた。 「あ、危ないじゃないですか。」 殺気に気付き避けてから確かめたものを凝視しながら茨姫〔シルフィス〕は誰ともなしに呟く。顔は蒼白だ。 「何言ってるの。こっちは殺るつもりでやってるんだから当然でしょ。それにしても、どうして避けるの!」 「避けますって、無茶言わないで下さい。これでも剣の稽古は欠かしていません。」 剣の稽古って…お姫様のくせに。 「話が進まないじゃない。大人しく殺されない。」 「話って刺すだけで殺るまではしなかったでしょう!」 「元々の話なんてどうだっていいわ。」 「言ってることがさっきと違うじゃないですかー。」 延々続く様に見えた争いは騒ぎを聞いて駆けつけた警備兵によって収められることになる。 |