LET's GO ショッピング

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秋も半ばを過ぎ外気も冷たく感じられる頃、芽衣の部屋にキールが訪れた。
「何の用よ。か、課題ならちゃんとやってるよ。」
「ほー、『ちゃんと』ね。」
既にペンは机の上に放りだされ、魔法書も広げたまま、これまた机の上に放置されていた。
如何にも煮詰まってます。っといった様子だ。
「まあいい、課題は後で見てやる。外に行くぞ。」
「え、何しに?」
「お前の服を買う。」
芽衣はキールの言った言葉を頭の中で反復する。
「一体どういう風の吹き回し?」
「お前、服が欲しいって皆に言って回っただろう。」
皆?
はて、言った記憶はあるが皆と言うほど言いふらしただろうか?
芽衣は記憶を探る。
「レイニス殿からはお前が服をねだると苦情が来てるし、
ガゼルからは『服ぐらい買ってやれよな。』、 シルフィスからは『服ぐらい買ってあげないとかわいそうです。』なんて二人から言われるし、
兄貴からだって『芽衣さんが服を欲しがってましたよ〜。』なんて言いに来るし、
シオン様からは『服ぐらい買ってやるのが男の甲斐性ってもんだ。』なんて変な諭され方するし、
王宮書庫に行ったら、ディアーナ様には『女の子にとって、服って大切な問題ですのよ。』って言われるし、
果ては、セイリアス殿下に『院の方には予算を十分与えてある筈だが?』何て言われたんでな。」
確かに、そのメンバーには言った記憶があった。
「研究院の方には申請をしているからもう少し待て、と言った筈だよな?」
キールの表情は冷たく、眉間にはしわが寄り、こめかみにはくじらが浮かんでいる。
「若しかして、若しかしなくても怒ってる?」
「別に、只このままでは異世界人に服も買ってやらない酷い奴と思われるのは必至だからな、急遽俺が買うことにした。」
「え、キールが買ってくれるの?」
「ああ、今月買おうと思っていたオーブを諦めてな。確かあれも先月お前が割ったんだったよな。」
怒りは、根深い物であるらしい。


王都の大通りは大きく、道なりに幾つもの店が立ち並んでいる。
二人はその店の何処かで買おうと大通りにやって来て、取り敢えず手頃な店に入った。
芽衣が服を選ぶこと数十分キールが痺れを切らし口を挟んだ。
「服なんてどれでも良いだろう?」
「言い分けないじゃない。」
即答である。
又、選び始めること十数分、このままでは限が無いと確信し、僭越ながら助言を贈る。
「あれ何か良いんじゃないのか?」
キールが指差した服は、青いガウンの付いた暖かそうな服だった。
「ほんとだ、かわいい。」
芽衣も同意する。
早速手にとって見、店の主人に何事か耳打ちする。
奥に入っていくところを見るとどうやら試着するらしい。
又、キールは手持ち無沙汰のまま待つ事数十分。
「お待たせ。さ、行くわよ。」
「え、あれ買うんじゃないのか?」
先程まで芽衣が見ていた服は既にハンガーに掛けて置いてある。
「あの服はチェックしただけ、他のと見比べないと買わないわよ。」
「他のって?」
もうこの店のものは散々見尽くしたはずだ。
「他の店の!」
勘弁してくれ。

その調子で次の店を回り、その又次の店を回り、又々次の店、又々々次の店……
「あれ、お前の着ている『制服』って奴に似てないか」
既に疲労困憊もういい加減にしてくれ、といった風体だったキールがショウウィンドゥに目を止めた。
「え、どれ。」
芽衣もそちらに目を向ける。
青の上下に、胸元で止めるタイプのショールが制服の襟の部分に似ていた。
「ほんとだ。」
窓ガラス越しに見える値札を確かめて芽衣は首を振る。
「駄目だ、高い。」
一番始めに見た服の、ゆうに三倍の数字が書いてある。
でも、かなり後ろ髪を引かれる服である。
「買ってやるよ。」
キールの言葉に芽衣が振り向く。
「自分故郷に執着するのは人として当然の事だ。まして帰りたい場所ならなおさらな。」
「いいの?」
「これくらいなんて事はない。」
「ありがとう!」
芽衣はキールに飛びついて喜ぶ。
「いいから、さっさと買ってこい。」
財布か軽くなるが、これで帰れるな。
芽衣の後ろ姿を見送りながらキールはそう思った。
「おまたせ。」
程なくして紙袋を抱えた芽衣が帰ってきた。
「じゃ、次ぎ行こうか。」
「へ?」
「今度は靴を見るの。」
その言葉にキールは、今日は芽衣の課題はおろか自分の研究の続きも出来ないだろう事を感じた。



「ねえねえ、さっき『自分故郷に執着するのは人として当然の事だ。』って言ってたけど、キールもそうなの?」
キールは長いこと家に帰っていない。
彼は少し上を向きため息を付きながら
「それはないな。第一、うっとおしい兄弟が近くにいるしな。」
芽衣は一拍おくが、すぐさまクスクスと笑い出す。
「そうだね。」



私にはキールとイーリスとの接点が想像付かなかった。
だからイーリスバージョンのコメントも用意していたが、使えなかった。
と言う訳で(何がと言う訳なんだ!)芽衣の冬服登場です。