恐怖の日

恐怖の日



その日は朝から浮ついた空気が流れていた(笑)

それは朝、訓練のために宿舎から稽古場まで移動中の事である。
門を出た辺りで予期せぬ出来事にあった。
「来たわよ」
何故か歓声めいた黄色い声があがり、見ると何十人という女の子がこちらに押し寄せてくる。
シルフィスが思わず後づ去ったのは言うまでもない。
あわや 輪の中に取り込まれ少女達の犠牲になろうという時一緒に居たガゼルが助け船を出す。
「こっちだ、シルフィス!」
隙間を掻い潜り、シルフィスは走り出した。
今日ほど自分の足が速いことに感謝した日は無いだろう。
ガゼルに先導されて、やっとのことで稽古場に飛び込んだ。
「はー、何だったんでしょう。すごい人でしたね。しかも、女の子ばかり…」
シルフィスはバレンタインデーを知らないらしい。
「ほんと、57人も居もたぞ。」
ガゼル!何者だ、お前
あの騒ぎの中、人数をチェックしたらしいガゼルをシルフィスは呆れた表情で見つめる。
遅れて、レオニスが到着した。
いささか疲れた表情をしているところを見ると、移動中あの手の団体に捕まったとみえる。
去年までは、その眼光ゆえ、近づく近づく勇気のある女の子は少なかったのだが、
今年は某○イ=フジ○ラのお陰でその印象も大分崩れ、寄る波は大きい。
今日は、何も異世界の少女だけがたくましいのではないと思い知ったことであろう。
それにしても、あの女の子の群れを彼はどうやって回避したのだろうか。
女の子相手に怒鳴って脅すような人でもないし…
シルフィスたちのように走って逃げたのだろうか?
…走るレオニス…見てみたいぞ

そして午後になり、稽古も終了して寄宿舎に帰ろうとしたところ、
未だ居た(笑)
「ずーっと、あそこで待っていたんでしょうか」
はっきり言って、シルフィスは脅えている。
稽古場の窓からは、わらわらと たむろしている少女達が見える。
この場にメイが居たならば、アイドルの出待ちみたいと感想を残した事だろう。
それよりも問題は、どうやって帰るか、
外に出た途端あの団体に捕まるのは必至である。
このまま、稽古場に泊りたい… そう思ってシルフィスはため息を吐く。
「そうだ!シルフィス、変装してみれば。」
こう、髪を下ろしてさ。と、ガゼルは本人の了解を取らぬまま言葉を実行する。
ガゼルはこの状況を楽しんでるようだ。
その証拠に、先程からにこにこと笑みを絶やさない。
「あとは、これを羽織れば…うーん完璧!」
髪を降ろしただけで、女の子に見えるのだが、ガゼルは備品を包んでいた布をシルフィスに巻きつける。
シルフィスは、そうでしょうか、と自分の格好を見下ろす。
「隊長、これ今日一日シルフィスが借りてもいいっすよね!」
「ああ、いいぞ」
じゃ行こうかー、とガゼルはシルフィスの手を取るが、シルフィスは何かを思い出した様に振り返る。
「隊長はどうされるのですか」
聞くな、シルフィス(笑)
「あ、そっか隊長は変装……無理だろうな」
ガゼルが目をしかませたのは、どうやら女装のレオニスを想像したらしい。
それにしても、変装と言ったら女装しか思い付かないのかな…
「何とかする、気にせずに行け」
レオニスは二人を安心させるように笑む。
二人はレオニスを気にしながらも押し出されるように稽古場を出た。
ガゼルの言う通り、シルフィスが怪しまれる事はなかったという(笑)
助かりはしたのだが、シルフィスは複雑な気持ちだった。

一方 その後の稽古場では、レオニスが一人ここに泊る決意をしていた。
職務はどうした!




これに、懲りて女の子になるのやだなー、とか思ったら
一生追いかけられる人生になるぞ!シルフィス、めげるなよ